安倍元首相の死後、“アベノミクス離れ”をすすめた岸田首相(写真:時事通信) 画像を見る

今年3月、日本銀行はマイナス金利政策の解除を決定。その3日後、政府の月例報告からアベノミクスの「3本の矢」の表記がひっそりと消えた。

 

日本経済団体連合会(経団連)も、十倉雅和会長が「(金融政策を)早く正常化すべき」と発言。実質的に、アベノミクスを否定したことになる。

 

〈大胆な金融政策〉〈機動的な財政政策〉〈民間投資を喚起する成長戦略〉の「3本の矢」を柱として、第二次安倍政権が発足した2012年末からスタートしたアベノミクスが終わりを迎えようとしている。

 

安倍晋三元首相の経済政策に疑問を投げかけ、近著『全検証 コロナ政策』(角川新書)でもアベノミクスを検証した弁護士の明石順平さんがこう解説する。

 

「アベノミクスは円の価値を落として円安にしただけの成果しか残しませんでした。昨今、急激な円安の動きが目立ちますが、アベノミクスがスタートしてから円安傾向が続き、日本はどんどん貧しくなっていったのです」

 

■アベノミクスで円の価値が暴落した

 

通貨の実力を示す「実質実効為替レート」を見ると、アベノミクスがスタートしてから円の価値は下がり始め、現在は1970年より低いレベルまで下落している。

 

「アベノミクスが提唱した異次元の金融緩和政策に従って、日銀は民間の金融機関の保有する国債を爆買いし、円を大量供給しました。円が大量に供給されれば、円の通貨価値は下がります。アベノミクス前は1ドル80円程度だったのが、2015年には120円台に。ドルに対する円の価値は3分の2に暴落したのです」(明石さん、以下同)

 

円安になると輸入品の価格が上がるため物価も上昇する。

 

「アベノミクスでは物価が上がっていなかったと思っている人が少なくありません。日銀の“前年比2%”という目標が達成されていないとさかんに報道されたからです。実は、アベノミクス開始前と比べるとコロナ禍の影響が出る前の2019年度までに消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合指数)は7.6%も上昇。2度の消費増税の影響もありますが、円安の影響が大きいのです。

 

そのあとも国債の爆買いが続けられました。今の円安と物価高は、アベノミクスの副作用なのです」

 

表を見てほしい。第2次安倍政権発足後から、消費者物価指数はうなぎ上りに。2012年を基準(100)とすると、物価指数は2023年には114.3まで上昇。一方で、名目賃金指数は104.8までしか上昇していない。名目賃金指数を消費者物価指数で割ることで求められる実質賃金指数は、なんと91.7まで急落したのだ。

 

同じ年収500万円でも2024年の価値は、2012年と比べると、購買力という点から考えると、実質的に60万円ほど目減りしたことになる。

 

「アベノミクスがいまだに成功だったと言っている人は“賃上げ2%達成”を理由に挙げますが、それは春闘に参加した組合員が対象で、労働者の全体から見ると5%ほどしかいません。

 

手取りが増えないのに物価が上がり続けているから、戦後最悪の消費停滞が起きているのです」

 

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