■生活苦のために年金財政が改善した
厳しい数字が並ぶが、前回の財政検証では、より早い段階で所得代替率が50%近くまで落ち込むシナリオが多かったので、この5年間で「年金財政が改善した」ということができる。しかし“改善”の裏にあるのは、私たちの生活苦と負担増だ。
今回の財政検証によると、2019年よりも労働人口は700万人増加し、15歳以上の就業者の割合は5.5ポイント上がったというが、前出の島澤さんはこう指摘する。
「物価高や年金を含む社会保険料の負担などのせいで生活が苦しくなり、主婦や高齢者が外に働きに出ざるをえなくなったことで、年金の支え手が増え持続可能性が高まった。それを喜んでいるとしたら、まるで喜劇みたいな悲劇です」
一方、新たな負担増の兆候も今回の財政検証から見てとれる。
「国民年金の納付期間を5年延長する案が検討されていましたが、来年の制度改正では見送る方針を厚労省は示しました。しかし、今回の財政検証では、これを前提とした試算も盛り込まれています。5年延長すれば、『過去30年投影』シナリオでも、2055年度の所得代替率は6.9ポイントも改善するとアピールされています。いずれ、実施したいという思惑もあるのでしょう」
給付額の抑制に、新たなる負担増……。今後も、厳しい年金財政が続いていくことは間違いがない。
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