一死をもって抗議する――。
7月7日、そんな遺書を残して自死した兵庫県の元・西播磨県民局長のYさん(60)。
発端は今年3月。西播磨県民局長だったYさんが、斎藤元彦兵庫県知事(46)の“パワハラ”や“おねだり”疑惑など、7項目に及ぶ問題行為をマスコミなどに告発したことに始まる。
Yさんは、あと1カ月で定年退職、新年度からは学校の校長に就任することが決まっていた。そんな矢先に危険を冒して告発に踏み切ったのはなぜか――。
「彼は、何事にも義を重んじるタイプで、情に厚い男でした。
後輩の職員たちが、県民のためにイキイキと働ける職場であってほしい。ただその思いだけで告発したんです」
そう明かすのは、Yさんの知人で、県関係者のKさんだ。
「斎藤氏は知事に就任したとたん、すでに辞意を表明した片山安孝副知事(64)を筆頭に、かねてより親しかった数名の職員を幹部に抜擢。内輪だけで県政を進めていました。気に入らない者は左遷、更迭など冷遇されますから、職員たちは、戦々恐々としてウツになる人もいた。
人望の厚いYさんは後輩たちから相談を受けていたので、退職前になんとかしたかったのでしょう」(Kさん)
ところが、斎藤知事は当初、Yさんの告発を「嘘八百!」と決めつけ、右腕の片山副知事らがYさんのパソコンを押収。第三者機関による調査もせず、Yさんを懲戒処分にしたのだ。
しかし、Yさんの告発が嘘八百ではない証拠が報じられたため、兵庫県議会は調査権限をもつ「文書問題調査特別委員会」(以下、百条委員会)の設置を決定。7月19日にYさんが百条委員会で陳述することが決まると、「知事の側近や知事に近い県議から、Yさんへの“脅し”が始まった」と報じている。
「私は、彼が自死する10日ほど前までやりとりしていましたが、彼は闘う気満々でしたよ。
でも、その裏では、『百条委員会の証言に立つなら(Yさんの)パソコンに入っていた個人情報をすべて公開する』などと脅されていたようです。百条委員会を何が何でも貫徹するためには、“最後の抗議”をするしかない、と考えたのでしょう」(Kさん)
Yさんが出席するはずだった7月19日の百条委員会では、彼が死の直前まで準備していた陳述書と音声データが公開された。
そこには、「まだ飲んだことがないので折を見てお願いします」などと、ワインを“おねだり”する知事の声が。ワインは地元町長から知事の元に届けられ、知事は「自宅で飲んだ」と認めている。
そんな“おねだり”知事と正反対なのがYさん。地元住民からも厚い信頼を寄せられていた。
「Yさんはサイクリングが大好きで、住民たちと一緒に、よくサイクリングに出かけていましたよ。
ちょうどコロナ禍になったころ、『サイクリングなら密にならない。住民の方々の気分転換にもなる』と言って、地元の名所を回るサイクリングコースを開拓し、パンフレットを作成してね」
Yさんが作ったサイクリングコースは、今でも西播磨県民局のWebサイトで紹介されている。
「県民局主催のイベントの際、気難しい住民に協力を求めに行っても、『Yさんのイベントなら、なんぼでも協力するよ』と、みんな快く引き受けてくれたようです」
Yさんは退職を前に、「西播磨に赴任させてもらって本当に幸せやった。ここで、いろんな人と知り合いになって、楽しい仕事ができた」と語っていたという。
一方、斎藤県知事は、おねだりのみならず“パワハラ”も。
〈執務室、出張先に関係なく、自分の気に入らないことがあれば関係職員を怒鳴りつける〉〈出張先のエントランスが自動車進入禁止のため、20mほど手前で公用車を降りて歩かされただけで、出迎えた職員らを怒鳴り散らす〉など、Yさんの告発文には、斎藤県知事の横暴ぶりが列挙されている。