■遺跡を通じてパレスチナの魅力を伝えたい
JICAが行っている支援事業の重要性を、ヒシャム宮殿遺跡の広報も担当する降旗氏はこう語る。
「大切なのは、貴重な文化遺産を後世に伝えることだけではありません。パレスチナの人たちに機会を提供してこの一帯が国際マーケットで勝てるような観光地にボトムアップしていくこと。もっといえば、観光客が来たときに地元にもお金が落ちる仕組みを作ることが大切です。そのためには、地域の住民を含めた形でヒシャム宮殿を盛り上げて、地元から愛される観光施設にする必要がありました」
無償資金協力事業実施の際にJICAが重視したのは地元住民との対話だ。シェルターのデザインについても地元住民と協議を重ねた。また日光や温度、湿度の変化で痛みがちなモルタル床のメンテナンスについてもパレスチナの人たちが行えるように技術移転に力を入れた。“施設を作って終わり”ではなく、現地の人が遺跡を活用し、持続的に利益を得られるような体制作りが目標だった。
「イスラエルには、世界遺産に登録されている遺跡も多く、様々な観光名所が存在します。たとえば、必ずツアーに組み込まれている人気スポットに、塩分含有量が高く浮遊体験が楽しめる湖『死海』があります。ところが、湖岸の一部はパレスチナ自治区にも面していますが、同地域の多くはイスラエルにより管理されています。死海周辺の商業施設である〝死海リゾート〟で海外の観光客がいくらお金を落としてもパレスチナには一銭も落ちません。
そこで死海に行く過程で、近くにあるジェリコに立ち寄ってもらい、ヒシャム宮殿を観光し、そこでご飯を食べたり、お土産を買ってもらったりしてお金を落とすようなサイクルを構築しようと考えています。さらには、観光地としてけっしてメジャーではないジェリコという町を通じて、イスラエルだけでなくパレスチナにも行ってみようというモチベーションを生み出したいと考えているのです」