(撮影:高野広美) 画像を見る

【前編】医療的ケア児の次男を撮り続けるママカメラマン「私はここにいる」より続く

 

日本には約2万人の医療的ケア児がいるとされ、全国の公立特別支援学校には6,674人の「医ケア児」が在籍し、うち338人は保護者が付き添いをしているとされる。

 

学校では黒子に徹し、存在を消すように言われる保護者。

 

「私はここにいる」「あなたはひとりではない」という思いを届けるために医ケア児の保護者の現状をユーモアのある写真で伝えてきた。

 

■自分ことを「透明人間」と呼ぶことにした

 

「学校は教育現場であり、子供たちの自立の場です。必要なとき以外、お母さんは気配を消していてください」

 

入学直後に学校側からそう申し入れがあった。そのときの心境を山本さんはこうつづった。

 

〈「黒子に徹する」とかカッコよく言う人もいるけれど、私はここでの自分を「透明人間」と呼ぶことにしました〉(『透明人間』より)

 

待機するのは、学校の3階奥にある和室。身を潜め続ける息苦しさは「拷問のよう」でもあり、早くも秋ごろには心身に異変が生じた。

 

「目の下が痙攣したり、気持ちの浮き沈みが激しくなったり。現実に私がアンビューバッグを押したのは年に1度という割合でしたから、先生にも『なんで私は帰っちゃいけないんですか』と問い詰めたりもしてました。

 

友人にすすめられ精神科へ行くと適応障害の診断で、医師からは『しばらく学校へは行かないほうがいい』とのアドバイスでした」

 

すぐに家族に相談もしたが、

 

「夫や実母は、『だったら瑞樹は学校に行かなくていいよ』との返事。友達も『そんなに無理しなくていいんだよ』と。

 

私を心配してのセリフとはわかっています。でも、本当に私がほしかったのは、一日でもいいから『付き添い代わろうか』『一緒にいようか』という言葉でした」

 

瑞樹君の世話はけっして嫌ではなかった、と打ち明ける。

 

「ただ、周囲の『さすがお母さん』の言葉ひとつで、私にすべて丸投げされるのはもうごめんだと。

 

結局、少しだけ休みましたが、そうなると家のベッドにいる瑞樹を見て、やっぱりまた学校を思い出すという葛藤の繰り返し。最後は、この先も急に私に何かあったらこの子はどうなっちゃうんだろうという絶望に至るんです」

 

この危機的状況を救ったのは、小2から週1で学校を休んで利用するようになったデイサービス。

 

「その一日に、たまった家事やほかの子の用事をすませたり、何より自分の休息がわずかでも取れるようになりました。

 

付き添い生活をしていた私たちにとって初めての当たり前の生活があり、本当にありがたかった」

 

心に少しできた余裕が、新しいステップにつながっていく。

 

介護もしながら、なんとか社会とつながりたいと思い、うちには10年以上前から猫がいたこともあって、保護猫を預かるボランティアを始めました」

 

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