史上最多の候補者数で争われている自民党総裁選(写真:共同通信) 画像を見る

9月24日、林官房長官が衆議院の議員運営委員会の理事会に出席し、10月1日に臨時国会を召集する日程を正式に伝えた。臨時国会では、9月27日に行われる自民党総裁選で選出された新総裁が、岸田文雄首相の後継として第102代首相に選ばれる見通しだ。

 

「自民党総裁選には史上最多となる9人の候補者が名を連ねましたが、有力候補の1人である小泉進次郎さんがメディアの取材に、岸田政権の防衛増税や経済政策を踏襲すると答えていたように、多くの候補者が現行路線に沿う姿勢をみせています。候補者が掲げる政策のなかには、私たちの家計に直結するものもありますから、注視する必要があるでしょう」(政治記者)

 

経済産業省の元官僚・古賀茂明さんも同様の見方だ。

 

「国会議員は人気取りのために『○○を実現します!』と公約を掲げますが、いまの日本の財政状況は厳しく、新たな政策を実行するとなれば、何かしら国民負担が生じることになります」

 

甘い言葉に隠された罠を見抜くため、本誌は主要候補者の過去の発言や政策提言などを検証してみることに――。

 

まず、高い人気を誇る小泉議員。

 

「規制改革に積極的で、あまりお金をかけない政治をする印象。ただイノベーション(革新)好きな面もあり、新しいプロジェクトを立ち上げて、お金を注ぎ込むかもしれません。さらに、自分が子育て真っ最中ということもあり、人気取りのための子育て支援策にも力を入れるでしょう」(古賀さん)

 

小泉議員は’16年に、若手議員とともに「人生100年時代の社会保障へ」という提言を発表した。

 

「少子化を“静かなる有事”と位置付けるほか、これまでの働き方を刷新していくという考えも示唆しています。そんな小泉さんだからこそ、女性の労働意欲を制限すると政府でも議論されてきた“配偶者控除廃止”に踏み切る可能性もあります」(前出の政治記者)

 

仮に配偶者控除が廃止された場合、どのくらいの負担増になるのか。妻の年収が103万円以下の場合、所得税で38万円、住民税で33万円の配偶者控除が受けられる。これが廃止されると、一般的な家庭の所得税率と住民税率(各10%)で、年間7万1千円の増税に。

 

配偶者控除に加え、退職金控除の見直しなどは昨年6月の政府税制調査会の中期答申でも明記されている。同答申は、財務省の意向が強く反映されているという声もある。

 

「加藤勝信さんは元大蔵官僚。財務官僚が議員バッジをつけたような存在で、財務省にとっては“扱いやすい”と見られています。また林芳正さんは、官僚から『いい人』と評価が高い。頭がよく、理解力が高くて手がかからないということもありますが、性格も穏やかで『みなさん大変ですね、頑張ってください』とねぎらうそうです。つまり官僚に『NO』と言えないタイプ」(古賀さん)

 

両議員共に、財務省が増税に向けて動く際に、その考えに流されてしまう可能性も。

 

「上川陽子さんはレク(官僚によるレクチャー)が長いことで有名。国会議員は官僚の言葉を聞けば聞くほど、その考えに染められていくものです」(前出の政治記者)

 

石破茂議員が公言しているのが、金融所得課税の強化。株や投資信託など金融商品の運用益には一律約20%の税金が課せられているが、この税率を引き上げていくというのだ。ほかの議員から「貯蓄から投資の流れが止まる」という懸念の声も上がっている。

 

「運用益が非課税の新NISAなどは対象外と補足しているため、富裕層の負担を増やしたい考えのようです。しかし、岸田首相が’21年10月の首相就任時に金融所得課税の強化を口にした際に株価が急落し、“岸田ショック”が起こったという前例も。石破さんが総裁に決まれば、その発言にマーケットが反応し、株価に影響が出る可能性が高い。iDeCoや新NISAで積み立てをしている中間層も、含み損を出すリスクがあります」(古賀さん)

 

河野太郎議員は、現役世代の社会保障の保険料を軽減したいと9月2日のXで発信している。裏を返せば、高齢者の負担を増やすということになる。実際に「高齢社会対策大綱」に、“医療費3割負担とする75歳以上高齢者の対象範囲を広げることの検討”が盛り込まれるという。年金に関しても、いったん見送られている、国民年金の保険料納付期間を5年延長する案が再浮上したら、今の50代の老後プランが大きく変わることになるだろう。

 

コバホークこと小林鷹之議員は、原発新設について言及している。仮に原発を新設した場合、電気料金があおりを受けることに。1基あたり2兆円(イギリスの原発新設費用参照)で、東京電力管区の人口、4人家族の電気消費量などを加味して本誌が独自試算ところ、原発新設により1世帯あたりの電気料金は、年間3千565円上乗せされることになりそうだ。

 

そして、次期総裁となれば、もっとも私たちの生活に影響が出そうな候補者が高市早苗議員だ。

 

「近著『国力研究』(産経新聞出版)では、防衛力の抜本的な強化を主張しています。現在、GDP比2%までとする防衛費のさらなる増額に踏み切ると考えられます」(前出の政治記者)

 

長引く円安により、兵器も“値上げ”している。F-35B戦闘機は、’22年は1機200億円だったが、’25年には202億円になるという。そのため、現状のGDP比2%の防衛費では、想定していた装備が揃わないという現実もある。

 

「それでも国会議員の多くは、さらなる防衛費増額にためらいがありますが、高市さんは違う。本気で中国と渡り合うあうことを想定し、防衛費をGDP比2%どころか、3、4、5%と引き上げていくことが考えられます。仮にGDP比1%の増額分を、消費税だけで賄おうとすれば、消費税は2%引き上げる必要がある。増税反対の声を上げようにも、国がなくなったら終わりだと、危機感をあおってくるでしょう。そのくらい本気で防衛費拡大を考えているのでは」(古賀さん)

 

こんななか、茂木敏充議員だけは“増税ゼロ”を掲げるが――。

 

「それは国民にとってはうれしい限りですが、はたして実現可能なのでしょうか」(前出の政治記者)

 

古賀さんも首をかしげる。

 

「『成長戦略』によって経済を立て直すという方針とのことですが、12年続けても結局国民の生活を上向かせる成果を出せなかったアベノミクスに逆戻りするだけです」(古賀さん)

 

新総理誕生に伴う家計への影響は小さくなさそうだ。第102代内閣総理大臣として、この国の舵取り役となるのは、はたして――。

 

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