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茨城県では12月2日から、救急車で搬送の際にも「選定療養費」の徴収が始まります。

 

選定療養費とは、紹介状を持たずに大病院を受診したとき、初診料に上乗せされる料金で、7千700円以上と決まっています。

 

“とりあえず大病院が安心”といった風潮が根強く、大病院では待ち時間が長く、医師の負担も過大です。現状を変え“まずはかかりつけ医”の浸透を目的に、選定療養費は導入されました。これまでは自分で大病院を受診した場合に限られましたが、茨城県では今後、救急車での搬送時にも徴収範囲を広げることになります。

 

背景には、救急搬送の増加があります。茨城県でも救急搬送が増加傾向でしたが、コロナ禍の2020年にいったん減少。その後は再び増加に転じ、2023年には約14万件と過去最高を更新しました。2023年の搬送患者は6割以上が大病院に搬送され、その約半数が軽症だというデータもあります。

 

また、2024年4月から医師の時間外労働の規制が厳しくなりました。医師不足により診療体制を縮小する病院もあります。

 

茨城県は、このままだと本当に必要な患者に救急医療を提供できず、救える命が救えなくなる危機感を持ったのでしょう。救急車で大病院に搬送された患者のうち、緊急性が認められない患者からの選定療養費の徴収に踏み切ったのです。ポイントは「救急車を呼んだ時点の緊急性」です。たとえば熱中症などでは時間がたって病院到着時に回復していても、救急車を呼んだ時点で緊急性が認められれば選定療養費は徴収されません。

 

全国で救急医療は逼迫。制度は全国に広がるかも  県単位での導入は茨城県が日本初ですが、自治体でもっとも早いのは2024年6月に導入した三重県松阪市です。松阪市では選定療養費の徴収を原則「入院しなかった軽症者」としたことから、「救急車を呼びたくても呼べなくなる」といった批判が噴出しました。

 

ただ、救急車を私たちは無料で使えますが、実際は1回の出動で約4万5千円かかり、税金でまかなわれています。税金の無駄遣いを避けるためにも、また緊急性の高い患者が一刻も早く医療につながるためにも、「救急車は重症患者に。軽症患者は使わない」ことの徹底が必要でしょう。

 

ごくまれだと思いますが、救急車をタクシー代わりに使う人もいるとか。選定療養費の徴収はやむをえないと思います。松阪市では6月からの3カ月間で、救急車の出動が前年同期より約2割減少と、効果が出ています。

 

いっぽうで、救急搬送が必要なときは躊躇してはいけません。迷ったときは「救急電話相談ダイヤル」(大人は#7199、子どもは#8000)で相談しましょう。

 

救急医療の逼迫は全国各地で起きています。救急搬送時の選定療養費徴収は近い将来、日本全国に広がるかもしれません。この機会に、救急車の適正な使い方を確認しましょう。

経済ジャーナリスト

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