■「東大に入れば人生が完結するわけでもない」
自分でテキストを開くことができない允翼さんの勉強法は独特だ。とにかく視界に入る壁や天井に英単語や数式を貼り付けて、穴があくまで見つめて暗記する。また、学習内容を朗読するCDを繰り返し聴いて頭にたたき込む。
千葉県が派遣する学校介助員の支援を受けながら学校に通い、全身全霊をかけて勉強した。
高校2年生の夏には、東京大学先端科学技術研究センターが、高等教育を目指す障がい児童・学生に情報通信技術(ICT)を提供するプログラム「DO-IT Japan」に参加。プログラムを通じて、似たような境遇にある仲間や、社会を変えたいという同じ志の仲間に出会い刺激を受けた。そうして挑んだ東大受験。結果は不合格だった。母・香理さんはこう振り返る。
「“負けず嫌い”ですから。現役時に不合格になったとき、私のアルバイト先に電話をかけてきて、『オンマ、来年は必ず受かるからね』って大泣きでした」
1年の浪人生活を経て、2016年から新たに始まった推薦入試に挑戦。書類審査通過後、論文試験とプレゼンテーション、面接を乗り越えた。そして最終的にはセンター試験で9割近い点数を獲得し、見事允翼さんは合格を果たす。
──寝たきりで東大に合格。
そんな見出しとともに、快挙が伝えられた允翼さんは以降、メディアに出る機会も増えたが、本人はいたって冷静だ。
「これでめでたしというニュアンスでまとめられることには、違和感があります。東大に入れば人生が完結するわけでもないし。それに受験勉強はいま思うとたいした苦労ではありませんでした。東大に入ってさらに大変な勉強が待っていましたから」
【後編】「寝たきり」の東大生・愼允翼さん語る次の目標「自分のために勉強をするのはそろそろ終わり……」へ続く
(取材・文:本荘そのこ/写真:水野竜也、高野広美)