■オンライン診療より対面での診察にこだわる。そして今日も僻地に向かう
埼玉県内の地域医療を担う中核病院。午前中の受付はすでに終わり、診察室前は閑散としているが、いちばん奥にある内科診察室の待合室には、まだ1~2人の患者が座っている。由紀子さんが姿を現したのは、約束の時間を20分ほど過ぎてから。
「診察受付時間ギリギリに電話をかけてきた患者さんがいたので……。時間制限はありますが、私はなるべく患者さんの話を聞いてあげたいので長くなるんです」
相変わらず多忙の由紀子さんは、美容院に行く暇がなく「発作的にざくざく髪を切ってしまいザンバラな髪形になってしまった」と笑うが、その表情には疲労も残る。
「長距離移動は年齢的に厳しくなり、こんな生活がいつまで続けられるかわかりません。それでも時間があれば空港でマッサージを受けたり、地元のおいしいものを楽しんだり、友達に配るお土産を買ったり、地方で稼いだお金を地方で使う“地産地消”の医療生活にはやりがいがあります」
僻地の医師不足に対応するため、厚労省はオンライン診療を推進したい考えもあるが、このように由紀子さんは地方に足を運ぶ。
「オンライン診療は便利で推進すべき医療ですが、対面での診察にこだわりがあります。医師は患者さんがドアを開けて座るまでの様子を見ているし、モニター画面越しではわからない顔色、におい、聴診器から心音、触診など、五感を駆使して診る必要があるからです」
そう語ると病院を出て自転車をこぎだす。今度は30分ほどの場所にある産業医の仕事場に移動。
「明日は都内のクリニックでの診療後に、北海道の病院に向かう予定です!」
患者と真摯に向き合うために、これからも空を飛び続ける。
(文・取材:小野建史)
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