「国は長期的な食のビジョンを示して」“無借金経営”貫く母娘3人の米農家が明かす生産者の苦悩
画像を見る 「妹の陽子は次のことを先回りしてやってくれます。家の鍵も預けていて、私が遅くまで田んぼにいる日は、帰ると洗濯物が畳まれて夕飯まで用意されてることも」(桃子さん/撮影:小松健一)

 

■無借金経営で収入が得られる自然農法。自分たちが証明して女性農家の手本に

 

「あっ、もう一つ、私ら姉妹にとって大切な課題があります。この猛暑に、日焼けしないこと!いや、冗談じゃないんです。私たちが望んでいるのは、自然農法を、農業をやりたいという女性や仲間が増えること。そのとき当の私らが真っ黒だったら、若いコたちが『あんなになるならやっぱり農業は無理』ってなるでしょう(笑)。ですから、私と陽子のモットーは『夏も日焼けなし』です」

 

桃子さんがそう言うと2人は、目元以外の顔全体が覆われる日よけカバーを付け、「よっこらしょ」と立ち上がるのだった。そして、農業の将来について語り始める。

 

「自然農法はもうからない、苦労ばかり。この負のイメージを変え、きちんと収入が得られる土台を整えていく必要があります。うちは母子家庭だったこともあり、池内農園では、無理な投資をしない“無借金経営”を続けています。大型機械はもともと高額なのにもかかわらず、最近は値上げペースが異常です。先日も、機械メーカーさんから『今度から5%値上げするから、その前に買いませんか』という連絡がありました」

 

たとえ機械で作業が効率的になっても、借金ばかりになっては、女性中心の小規模農家では、とてもやっていけない。なんでも機械に頼るのではなく、ていねいな手作業も交えた自然農法であれば、無借金でも収入を得られる。

 

これからの女性農家のためにも、その土台を自分たちが作りたい、と桃子さんは意気込む。

 

「今、国政では国産米が足りないなら輸入すればいい、大規模化やシステム農業化すればいいという議論がされていますが、どんどん生産者の存在が薄められるようで、それではあかんと思います。国はどうしたいのか。目先のことではなく、本当にこの国のために長期的なビジョンを示してほしいです」

 

いつも胸にあるのは、田んぼを愛おしく思う気持ちだ。

 

「海外留学していたときに、一度だけ風邪で寝込んだんです。『おかゆが食べたい』と思って海外の米で炊いたら、正直おいしくなかった。『ああ、ずっとうちで食べていた日本のお米っておいしいんだな、大切なんだな』と、心から思いました。そんな体験も根っこにはあります」

 

今は若苗で緑の田んぼが、やがて秋には黄金に色づき収穫のときを迎える。そのころの米騒動の行方は想像もつかないが、池内農園の3人は変わらず、彼女たちらしい米づくりを続けているはずだ。

 

(取材・文:堀ノ内雅一)

 

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