■「きっと私は長く生きられないから」。今日も物語を綴る
《ええ、ええ。だいじょうぶですとも。ものはなくなっても心の中にちゃんとあるの。思いは消えないのよ》(志津栄子『かたづけ大作戦』より)
マンションのバルコニーからはかつて教鞭をとった西小学校が見える。窓を開ければ、風にのって子供の笑い声やはしゃぎ声が聞こえてくる。何かを充電するかのように、その声に耳をすませたあと、パソコンに向かう。
一連の病気は、「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」と「IgG4関連疾患」という免疫系の難病が原因ではないかという診断を受けた。2021年には肺の状態の悪化に伴い、障害者認定を取得している。
「きっと、私は長く生きられない。だから、いっぱい書かないと」
冗談とも本気ともとれない口調でそんなことを言う。6時間以上ぶっ通しで書ける日もあれば、体調が悪くてあまり書けない日もある。それでも、必ず毎日パソコンに向かう。心の中の教室で、子供たちが笑い、泣き、けんかをしながら成長していく。その様子を丹念に文字にしていく。
『ぼくの色、見つけた!』の主人公・信太朗は5年生となり、さまざまな出来事を経て、生きていくのに欠かせない大切なもの、“ララ”を見つけ出す。かつて自分のララは教え子たちだった。いまのララは何?
そんな問いにはこう即答する。
「書くこと。もちろん、小説を書くことですよ。私にはもうこれしか残ってないのだから」
作家、志津栄子。書けるから生きていける。
(取材・文:本荘そのこ)
画像ページ >【写真あり】肺の状態が悪化しているため外すことができないという酸素チューブ(他2枚)
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