■抗がん剤治療は高額療養費制度”を利用して
気がかりなのは、外来でも高額になりがちな抗がん剤治療などを受ける場合だ。
「同じ月内に窓口で支払った医療費が、“自己負担額”の上限を超えた場合、超えた分を支給する“高額療養費制度”があります。窓口負担が1割および2割の後期高齢者は、外来の自己負担額の上限が、月に1,8000円(年間上限144,000円)と決まっていますから、抗がん剤治療などの場合、窓口負担が大きく増えることはありません」(経済紙記者)
ただし、「今後、高額療養費制度の自己負担額も引き上げられる可能性がある」と、伊藤さん。
「高額療養費制度の自己負担額は、今年8月から引き上げられる予定でしたが、がんや難病患者らからの反対が大きかったため、いったん見送られました。しかし、維新や国民民主党など、野党の一部も引き上げを主張しているため、引き上げの議論が再燃するでしょう」
いっぽうで、「余裕のある高齢者に負担してもらうのは当たり前」と考える現役世代も少なくないが、高齢者の厳しい生活実態も垣間見える。
■物価高がさらに受診控えに拍車を
総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編・2024年平均結果)によると、65歳以上の無職夫婦世帯の場合、月の平均収入は約252,000円だが、食費や光熱費、交通費などの支出を差し引くと、月に約34,000円の赤字になっている。
「公的年金の支給額は、今年4月に引き上げられましたが、物価が2.9%上昇しているのに対し、年金の支給額は“マクロ経済スライド”の適用により1.9%の上昇にとどまっています。つまり、物価の上昇に年金支給額が追いつかず、実質、目減りしているんです。しかも、年金から天引きされる介護保険料や後期高齢者医療保険料の引き上げも続き、手取りはますます減少しています」(伊藤さん)
なけなしの年金生活者にとって、医療費の窓口負担が2割になることの影響は大きい。
前述の女性のように、ひざ痛を抱えていても、受診を控えては症状が悪化し、筋力が衰え、寝たきりになる可能性だってある。同様に、治療せず高血圧を放置していると新たなリスクが起こりうる。高血圧があると認知症を発症する可能性が5倍も高くなると米国心臓学会(AHA)は報告している。
こうした現状において、必要な医療は受けつつ、少しでも医療費の窓口負担を抑える方法はあるのだろうか。
■医療費を抑えるには世帯分離という選択肢も
全国保険医団体連合会事務局・次長の本並省吾さんは、こうアドバイスする。
「親子や夫婦であっても、それぞれの年金収入をもとに、食費や医療費などの支払いを分けて独立した生活をしていれば、世帯分離できる場合があります。
また、医療費の総額が、世帯合算で10万円を超える場合や、所得金額の5%を超える場合は、確定申告の際に医療費控除を行うと所得から差し引くことができます」
受診を控えて、もっと大きな病気になってしまっては元も子もない。窓口負担を抑える工夫も考慮して、健康維持を心がけよう。
画像ページ >【比較解説あり】<疾病別>10月以降の窓口負担額(他1枚)
