黒柳徹子、ビートたけし、笑福亭鶴瓶も訪れた「谷中の人形劇場」…人気演目を生み出したのは「意外なモノマネ芸人」だった
画像を見る 見ざる、言わざる、聞かざる、のようなかわいいおじいちゃん3人組。工房に飾ってある人形は1体2万円から購入可能(撮影:吉澤健太)

 

■こんなじいさんになりたいと思い作る。「老人が笑ってる国は、平和な国」

 

オーダーメイドで最も多いのは、「亡くなった人を作ってほしい」という依頼で、半分以上を占める。

 

亡くなった奥さんや旦那さん、おじいちゃん、おばあちゃん。写真がたった1枚しかないこともある。証明写真だけや、帽子をかぶり横顔もわからないことも。

 

「立体で作るっていうのは、絵みたいにそのまま写せばいいってもんじゃないんだよね」

 

正面、左右、斜めの写真がそろわないときは想像で補うしかない。だが、客の思い入れが強いほど、わずかな違いが大きくなる。

 

「『似てない』って言われることもありますよ。自分ではこれ以上ないところまでやっても、無理なときは無理」

 

それでも依頼は続く。なぜなら、それは単なる人形ではなく、“再会”だからだ。

 

忘れられない出来事がある。若くして亡くなった大学生の女の子。吹奏楽サークルの友人たちが、彼女の両親に内緒で人形を贈りたいとやってきた。写真を見ながら、「ここにほくろがあった」と言われれば、その場で付け加えた。

 

両親には「人形劇を見ませんか」とだけ伝え、友人たちが集まった。いつもどおり、人形劇が進む。笑いが起きる。

 

そして劇の最後。露木さんは、亡くなった娘の人形を簾からそっと差し出し、こう呼びかける。

 

「お母さん」

 

その瞬間、母親が崩れた。

 

「あんた、どこにいたの?」

 

父親は無表情のままだったが、やがて人形を渡すと、それを手にはめた。ぎこちなく動かし、そして笑った。

 

「作者冥利に尽きるよね。よかったなって」

 

1体あたり、完成まで約1週間。月に10体ほど制作し、これまでに1千700体以上の注文を受けた。

 

露木さんは言う。

 

「60からの人生が、いちばん楽しい」

 

好きなことで生活できている。儲かるわけではないが、暮らしは安定している。そして何より、来た人がみんな笑って帰る。

 

「こんな楽しい仕事ないよ。いまだにいちばん好きな趣味がこれなの。だから、休みの日もやりたい」

 

人生の後半。最後がよければそれでいい。

 

「これやらなきゃ、ほかにできることないと思って必死だった。でもね、たった一つ見つかれば、それでいいんだよ」

 

改めて、店に並ぶ人形がすべて笑っている理由を聞いた。

 

「老人が笑ってる国は、平和な国だと思うからね」

 

昔の写真を見ると、父親世代の男たちはほとんど笑っていない。

 

カメラを向けられても、むすっとしている。

 

「唯一笑ってるのは、孫を抱いてるとき」

 

その風景が好きだ。

 

「こんなじいさんになりたい、って思いながら作ってる」

 

笑いは必要だ。

 

「絶対いちばん大事。健康にもいいし、自分も元気になる」

 

もともとは人見知りで引っ込み思案だった。

 

「いまでもそうだよ」

 

けれど、人形のことなら自信をもって話せる。舞台に立つのは人形だからいい。

 

「隠れてるから、ばかばかしいこともできるんだよ」

 

この仕事に後継ぎはいない。

 

「たぶん、教えても難しい」

 

人形を作ること、人形劇を演じること、その両方を一人でこなす。

 

「人形を作るだけなら、もっと上手な人はたくさんいると思う。でも、人形劇はその人の感性だからね。同じにはならない」

 

似顔の感覚と人形の造形、舞台の間合い。それがうまい具合に重なり商売になった、と露木さん。

 

親の家があり、谷根千ブームがあり、テレビがあり、そして人が来てくれた。

 

「人に恵まれたよね」

 

亡くなった人をよみがえらせ、笑わなかった父親を笑わせ、老人を笑顔にし、自分もまた笑っている。

 

「最後は笑顔がいい」と笑いながら、また1体、笑う老人を作る。「指人形笑吉」の棚には、今日も笑顔が増えていく。

 

(取材・文:服部広子)

 

画像ページ >【写真あり】『鶴瓶の家族に乾杯』で訪れた笑福亭鶴瓶と。散歩番組では『モヤモヤさまぁ~ず2』『じゅん散歩』などにも出演(他3枚)

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