「遺産目当てだろう」と嫌味、実父からも裁判寸前…慶喜家“最後の当主”の57歳主婦軋轢にも負けず“家じまい”に奔走する理由
画像を見る 「母から受け継いだ着物などは、私には史料ではなく遺品。家族の物語を続けるためにも家じまいを進めてまいります」(撮影:高野広美)

 

■主婦の強みを存分に発揮して「やるなら、とことんやりたい!」

 

「およそ6千点の史料の中には、慶喜が大切にしていた父・烈公(斉昭)からの手紙や、明治天皇からの桜を見る会の招待状などもあります。寄贈先については、国立博物館の方々と弁護士の先生を交えて調整中です。わが家に残されていたのは、いわば一次史料。私は風景写真一枚にも家族の物語があると考え、どんな状況で撮られたかまでを伝えるため、寄贈の際にはすべての史料の受け渡しに立ち会うことを心がけています。それが6千点ですから、どれほどの時間がかかるかわかっていただけると思います」

 

谷中霊園への取材から数日後、名古屋市内の自宅で、史料整理の進捗状況について語る美喜さん。墓じまいについても、

 

「祭祀継承権は上野東照宮にお渡しすることになると思いますが、多額の負担をおかけするには忍びなく、何かしらの形で、多くの方のご協力をいただけないかと考えています」

 

祭祀継承者になってからは、さまざまな講演依頼や、雑誌・新聞の取材、本の出版に加え、’19年から始めたクラシックコンサートの企画事業を行う「バーナード・プランニング」代表としての顔もあり、まさに超多忙な日々を過ごしている。

 

「やるならとことんやりたいタイプです! 祭祀継承者となって多くの出会いもありましたが、そこからまた違う世界が広がるのが楽しみです。思いがけず多忙な毎日ですが、先日も疲れ切って帰宅したとき、旦那さんが『シチューができてるよ』と言ってくれたときは、本当にホッとひと息つけました」

 

隣で聞いていた直人さんは、

 

「彼女は人好きと言っても、交渉などで誰かと初めて会うだけでも疲れると思うので、せめて家庭にいるときは、僕の料理でゆっくりしてもらえるとうれしいですね」

 

いまも自宅に保管されている思い出の品々や、母親の安喜子さんから引き継いだ着物などを前にして、美喜さんは言う。

 

「母の着物は、まだ手放す時期を決められていません。私には史料ではなく、遺品なんですね。慶喜に関しては、現在も『江戸幕府を潰した裏切り将軍』などというネガティブな評価もあり、その名誉回復もしたいです。次期当主についても、誰かを指名しても、その人が金銭面はじめ苦労するのは目に見えていますので、いたしません。私には子供もいませんし、それが時代に合った自然の流れだと思っています」

 

取材最後の撮影では、40代で始めたというチェロを演奏してくれる場面も。名曲のメドレーに聴き入っていたが、突然曲調が変わり、あの徳川光圀(家康の孫)が主人公のテレビドラマ『水戸黄門』の耳慣れたテーマ曲になった。

 

「日本中が好きな元気になれる曲ですよね(笑)。私も元気に、これからがスタートという思いで前に進んでまいります」

 

持ち前の明るさと信念で突き進む、徳川慶喜家最後の女当主。その家じまいから目が離せない。

 

(取材・文:堀ノ内雅一)

 

画像ページ >【写真あり】第四代当主の慶朝さんはコーヒーとカメラを愛した自由人。「当主の苦労を次代に残さない叔父の選択は正しい」と美喜さん(他3枚)

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