「修理は治療」と痛感…予約殺到の“ぬいぐるみ専門クリニック”院長が語った「開業を決意したターニングポイント」
画像を見る これまで1万7千体のぬいぐるみを治療した箱崎なつみさん(撮影:高野広美)

 

■「私たちには子供がいないので、ねこちゃんも私の棺に入れてもらおうと思います」

 

なつみクリニックには、熱心なリピーターもいる。3月に入って取材に応じてくれた、67歳の男性Aさんだ。

 

「わが家には、犬、熊、ウサギ、イルカ、ペンギン……現在計62匹のぬいぐるみがいます。 なつみクリニックではこれまでに8匹がお世話になりました」

 

Aさんは2人兄弟だったが、43年前に兄(当時23歳)を、不慮の事故で亡くしている。31年前には父が亡くなり、以後は会社員として勤務しながら、母と2人で暮らしてきた。

 

「私は母との毎日を大事にしたいという思いで、53歳のときに会社を早期退職しました」

 

だが母をいたわりながらの安泰な日々も、長くは続かなかった。’14年、突然体調を崩した母は、2週間ほど闘病したのち、82歳で他界してしまったのだ。

 

「以来、一人住まいなんです」

 

母の生前から「かわいがっているぬいぐるみはいた」というが、

 

「やっぱり母が亡くなった後から、ぬいぐるみは増えてきましたね。にぎやかなほうがいいと思い、どんどん増やしちゃったんです」

 

はじめてなつみクリニックを知ったのは’23年。テレビで紹介されているのを見てHPで予約した。

 

「当時54歳くらいだった熊のバチロウくんを治療してもらいました。『すこしでも若返ってほしい』と。リクエストに『おちょぼ口がチャームポイントなので、そこは変えないでほしい』と」

 

バチロウくんは入院中に中綿を交換するだけではなく、目のパーツや、「おちょぼ口」の舌の生地を交換するなど大がかりな治療となった。

 

「無事完治です!」と連絡を受け、向かった’24年2月の退院時、バチロウくんと対面した感想は、

 

「僕も(バチロウくんの)きょうだいたちも『ああ、若返ったね! これで(母の死後に増えた)ちびちゃんたちと同じくらい生きられるね』って。それ以来、リピーターになって現在に至ります」

 

犬や猫などのペットを飼おうと思わなかったのかと問うと……。

 

「もう『死』に直面したくないんです。彼らは治療を受ければ若返ることができる。そして永遠に生きられますからね」

 

友人と旅行するときは心配で、出先から家に電話をかけるという。

 

「彼らが元気か確かめるんです。『みんな元気にしてる? あさって帰るよ』って。帰宅すると私の声の留守電が入っていてね……」

 

Aさんにとって彼らの存在は?

 

「ひとこと、家族です」

 

いっぽう幼少時に買ってもらったぬいぐるみを治療に出し、自身の「終活」の一環とした女性がいる。

 

東京都在住の笹本久美子さん(67)は結婚37年になる夫(73)と2人暮らし。介護が必要となった母(享年91)を’21年5月に、父(享年89)を同年10月にそれぞれみとっている。

 

「その後、実家を売却することになりました。家の中を整理しているとき、このねこちゃんの存在の大きさに気づいたんです」

 

笹本さんがいう「ねこちゃん」は、1歳の誕生日に買ってもらい、電車に乗るときも膝の上にのせて連れて歩いた、幼少時からの思い出がつまったぬいぐるみだ。

 

「母は洋裁が上手で、ねこちゃん用の着物、帯、パジャマ、お布団まで、ぜんぶ縫ってくれたんです。そのねこちゃんを、実家に置いたまま私は結婚しました。実家で見つけたとき、もうヨレヨレになっていたので『きれいになってほしい』と思いました」

 

親が亡くなったとはいえ、実家を売却したことには「自責の念に駆られていた」という。そんなときネットで、なつみクリニックの存在を知り、’24年12月にねこちゃんを入院させた。

 

「ねこちゃんは、腕の付け根の縫い目から破れてしまっていたり、全身の体毛が剥げてしまっていました。打ち合わせでは、細部まで希望を聞いてくれて、お顔も『元どおりにできます』ということでしたが『治さないで結構です』と。私と一緒に65年過ごしてきたので、お顔はそのままにしてもらいました」

 

きれいに治療完了した部分と、ともに年輪を刻んできた部分。それらすべてを含め、笹本さんは「いっしょにあの世に行きたい」と願っている。

 

「私たち夫婦には子供がいないので、ねこちゃんも私の棺に入れてもらおうと思います。その願いは主人も承知しているんです」

 

なつみクリニックの治療は、それぞれの依頼者の人生、さらにその先にまで向き合うものだった。

 

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