■いまも掛けられている夏の制服。「出張朝市をもり立てることは、翼音が望んだこと」
「朝起きて最初にやるのが仏壇の前で翼音にあいさつすることです。『いつもそばにいてくれてありがとう! 大好きだよ』と。声には出しませんが。
朝市の出店がある日は『フクロウのカップが売れたらいいね』とか、そのくらいの短い言葉です」(鷹也さん)
翼音さんの存在を感じたくて、お骨はお墓に入れず、仏壇に置き続けている。周囲には写真やお菓子が供えられ、すぐそばには白い夏の制服が掛けられている。悦子さんがつぶやくように語る。
「ひつぎに入った翼音は白い布に包まれて、姿を見ることも、足をさすってやることさえできなくて……。欲しいものもいっぱいあったはず。周りの友達がスマホを持っているのに翼音は持ってなかったから、買ってあげようと計画していましたが、それもかないませんでした。
白い制服は泥だらけになって見つかりました。クリーニングに出せばすぐ済むことなんでしょうけど、何度も何度も手洗いして、ここまできれいにしました。そのくらいはやってあげたくて……」
ダイニングキッチンの片隅にしつらえた、申し訳程度の広さの漆塗りの作業場で、誠志さんはもくもくと“翼音のフクロウ”を描いている。静かに時が流れる。
「父も年齢的にいつまで続けられるのか……。自分が父のように絵を描くことはできませんから、父が引退したら売るものがなくなります。正直、ボク自身、いつまでこの仕事を続けられるのかと、不安はあります。でも、いまはやれることをやるだけです。じいちゃんやばあちゃんを支え、出張朝市をもり立てることは、翼音が望んだことですから」(鷹也さん)
将来の不安を抱えながらも、前を向いて一歩ずつ歩む鷹也さん、そして誠志さん、悦子さん。そんな家族たちを、翼音さんは翼を広げ、空から見守っているはずだ。「大丈夫や」と――。
(取材・文:小野建史)
画像ページ >【写真あり】出張輪島朝市で働く父・鷹也さんと祖母・悦子さん(他4枚)
