夜逃げ・ホームレス経験から累計10万人動員の「こども万博」を主宰する手塚麻里さん
画像を見る 7月18日に日本科学未来館で開催された理工系女子応援プロジェクトで参加者と撮影。前列右から3人目が手塚麻里さん(撮影:高野広美)

 

■母と夜逃げ。当時の家に帰りたくなくて高校生で“ホームレス”状態に

 

手塚麻里さんは1985年4月23日、母方の実家がある長崎市香焼町で生まれた。2人兄妹の妹だ。

 

父の仕事の都合で3歳まで千葉県で過ごし、横浜市に引っ越した。

 

「いまでいうニュータウンで、周りの子は習い事に忙しい教育熱心なエリアです。

 

父は半導体を扱う会社の社員で、3歳のころ、ハワイ旅行に行った記憶があるほど、生活にゆとりがありました。私が小学校低学年のころに父は独立しています」

 

1998年に中高一貫の進学校・桐蔭学園中学校女子部(現・桐蔭学園中等教育学校)に入学。

 

このころに描いた将来の夢は「アフリカの自然保護区で、野生動物を保護するスタッフ」だった。

 

「そのスタッフになるには『獣医師免許が必要』と知りました。

 

そして中3のときに、北海道のホストファミリーのお父さんが亡くなりました。医師の到着を待っている間に亡くなったと聞かされ『将来は、鹿追町の医師になろう』と思ったんです」

 

夢が見えてきた手塚さんが突然の悲劇に見舞われたのは2001年9月、高校1年生のときのこと。

 

「父が、仕事で大きなトラブルに巻き込まれたんです」

 

それにより、両親は離別。母、兄と手塚さんは「夜逃げ同然に」横浜市の自宅を出て、都内の母の親戚宅に身を寄せた。

 

「身一つで家を出てきたようなもので、家賃も出せず、居候状態でした。それでも、親切にしてもらっていたんですが……」

 

中高一貫の桐蔭学園も「やめざるをえないと覚悟した」という。

 

担任に退学の意向を伝えると、「理事長にも報告してください」と言われ、理事長室へ。

 

そのとき故・鵜川昇理事長に言われた一言は、想定外だった。

 

「あなたが学校にいたいと思えば、卒業まで通っていいですよ。学費は免除します」

 

真剣な表情で諭す理事長の言葉を、手塚さんはいまも忘れない。

 

「卒業後も、お金を返そうとは思わないでください。

 

もし恩返ししたいとの思いがあるなら、社会人になって、あなたのような状況の子たちの力になってください」

 

「母はバイトしながら、掛け持ちできる仕事を探しにハローワークに通いました。兄は母の相談相手になりながら、受験勉強を。

 

私はというと、母と面と向かえば『ごめんね』と謝られるばかりで、いたたまれなかった……」

 

高校退学は免れたものの「心は空虚だった」と手塚さんは明かす。

 

「高校の学費も払えないんだから、大学の医学部には行けない=医師になれないのは見えていました。

 

母は『自分のせい』と謝るんですが、私は『謝って解決する問題じゃない』という思いがあって」

 

それから公園通いが日課になり、毎日、ちょっとずつ家に帰るのを遅くしていきました」

 

夕食どきを過ぎても「図書館が20時までだから心配しないで」と告げて、帰宅時間を延ばした。

 

以来、いろんなホームレスの人と話をして公園で過ごした。

 

ある夜、中年女性から「いつもいるねえ。家出したんかい?」と問われ「そんな感じですかね」。

 

寒さをしのぐ方法を教えてもらい「仲間入りできた」気がした。

 

「母に『友人宅に泊まる』と断っておいて、朝帰りも増えました」

 

翌春には、上野公園にも足を運ぶようになっていた……。

 

その夏ごろ、母の収入のめどが立ち、神奈川県大和市で2LDKの一戸建てを借りられることに。

 

まだ家具も入れていない殺風景な洋室に、母はゴロンと寝そべって、こんなふうにつぶやいた。

 

「やっと家ができたね。やっぱり家っていいね……」

 

その一言に、心から安堵した。

 

「母はフーッと一息ついて、ホッとした顔になりました。それを見て、私も『よかったなあ』と」

 

それをもって、家出少女は帰還した。手塚さんは“ホームレス生活を卒業”したのだ。

 

2011年11月に、会社員の手塚一浩さん(45)と26歳で結婚。

 

長女・理音さん(12)、長男・浩翔くん(10)、次男・悠真くん(7)と、3人の子宝にも恵まれた。

 

「すっかり手狭になった」手塚家は「家族旅行に行って気に入った」神戸市に2019年2月に引っ越し。

 

その3階建ての一戸建て住宅が、「こども万博」の出発点となる。

 

次ページ >計128コの「やりたいこと」が原点。スピーチ大会から発展してこども万博に

【関連画像】

関連カテゴリー: