「驚きましたよ。同じ岩手でも、私が育った内陸部と沿岸部では、ここまで方言が違うものかとビックリしました」
楽しそうに話し始めたのは、菊地伸枝さん(39)。岩手県内陸部・紫波町出身の女優さんで、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』には「岩手ことば指導」として関わっている。方言は『あまちゃん』の核の1つでもある。岩手ことばの豊かさに、菊地さん自身「じぇじぇ」だったそうだ。
「最初に脚本を見たときは『じぇじぇ』じゃなくて『じゃ』じゃないの?って思いました。岩手でも盛岡や花巻などの内陸では『じゃ』なんです」
昨年6月、方言指導の仕事が決まり、8月、小袖海岸へ来た。海女や昔話の語り部、漁業関係者の言葉を実際に聞いて、話して、イントネーションや言葉の来歴を研究した。
「ひとつ決めていたのは、うそくさい東北弁にはしないということでした。作家さんは標準語で書く場合が多いようですが、宮城県出身の宮藤官九郎さんは最初から方言で書かれています。それを私たちが岩手ことばに直します」
その後、完成した脚本を音声にして吹き込み、役者は菊地さんたち方言チームが吹き込んだ音声CDを聴いて、イントネーションやアクセントの位置を覚えていくのだ。故郷編では、宮本信子さんをはじめ、おもに女性の出演者を担当した菊地さん。本読みから立ち会い、撮影現場では一日中、役者さんの方言をチェックした。そんな努力のかいあって、登場人物の言葉は「ポップな方言」と話題になった。
菊地さんは高校卒業後アニメの声優に憧れて上京。それまで自分は方言を使わず、テレビの標準語でしゃべっていると思っていたのが違っていたことに気付き、「人と話すのが怖い時期がありました」という。それが今回初めての方言指導を務め、コンプレックスが一転した。
「方言っていいなぁと思いました。方言って形のない小道具なんです。その土地の雰囲気、その土地らしさ、温かさみたいなものまで、ドラマとして伝わるといいなと思います」