隔週連載“中山秀征の語り合いたい人”、今回は7大陸最高峰の最年少登頂を達成したアルピニスト・野口健さん(41)の登場だ。登山とは何か、野口さんは語る。

中山「野口さんは、満足とかするんですか?」

野口「一応満足するんですよ。やったー、もうあんなところに行かなくていいって。でも帰ってきてしばらくすると、同じくらい達成感のあるものがないんですよね。命を賭けてるから、山ってずるいんですよ」

中山「刺激が強いんですね」

野口「ぜいたくな命の使い方だと思うんですよね。それ以上賭けられないし、究極のギャンブルなんですよね。だから、山にいる人って時間がたつと、またギリギリの世界に行くんですよ。ブランクがあっても」

中山「ご家族が『もう山はやめてよ』とか反対しないんですか?」

野口「あるときからかみさんが生命保険にハマりだして、実は僕、17社も保険に入ってるんです(笑)。確率論で言うと、『湾岸戦争で米兵が戦死する確率より、エベレストのほうが死ぬ確率が高い』というデータを保険会社の人が持ってきまして。戦場より死にやすいとなると、保険料も高くなりますよね。『年間いくら払ってるの?』って聞いたら、『アナタは気にしなくていいから』って。聞いたら怖い額なんだと思うんですけど……(笑)」

中山「新しい保険を見つけると、『まだこんなのがある』ってうれしくなるのかも(笑)」

野口「僕は32歳のとき、エベレストに一緒に行った人を残して帰ってきた。僕も凍傷がひどく、高山病にやられてゲーゲー吐いてたし、体力も残されていなかった。登頂して、最終キャンプに戻ってきたときには、ほかの隊の人が横で、脳の血管が切れて急に死んでしまった。そのエベレストは、ものすごく疲れ果てたんですよ。精神的なダメージもすごかった。かみさんに『もう山はやめようかな』っていう話をしたら、普通だったら『それもいいかもしれないね』とか言うじゃないですか。でもかみさんは『あなたはアルピニスト。山に登るあなたが好き』とかいうんですよ。オマエ、その裏には生命保険があるだろう!って(笑)」

中山「奥さんも野口さんの周りで人が亡くなっていくのも知っているから、怖さは知っているんですよ。信用してるんですよね」

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