畳に広げられた2枚の袴。生地は美しく、舞台ではさぞ映えたことだろうが、紹介写真には撮影者の足まで写り込んでいる無造作ぶりだ。そして見出しには《市川猿之助旧蔵! 歌舞伎用衣装》の文字が――。

「ネットオークションに猿翁さんの愛蔵品が出品されていると聞いて本当に驚きました」
 
市川猿翁(75)と何度も共演したことがある歌舞伎俳優は、動揺を隠さなかった。9月上旬、Yahoo!オークション、通称“ヤフオク”に猿翁が猿之助時代に着用していた衣装などが大量に出品されたのだ。商品説明には次のような文章が記載されていた。

《市川猿之助の名前の入った柳行李に入ったものをまとめて入手しました。昭和30年代から40年代頃のもののようなので、三代目だと思われます。大量にあるので柳行李など、それぞれをバラして売ります》

 確かに柳行李には、澤瀉屋の紋に墨書きで『市川猿之助』の名前がある。

「(柳行李は)徳島で製作されたもので、製作者も亡くなっていますし、大変貴重なものです。そもそも存命の歌舞伎俳優の名前が入った道具や衣装が売りに出されるなど前代未聞のことです。本人が使用しなくなっても形見分けなどで弟子たちに譲られるケースがほとんどだからです」(歌舞伎関係者)

だが、その文化的価値にもかかわらず、柳行李の落札価格は1万500円。それもマシなほうで、袴1枚・着物1枚、それに帯などを合わせた6点セットは、2千322円という値段しかつかず、まさに叩き売り状態だったのだ。売られていたのは衣装や道具ばかりではない。

「神田の古書店では、猿翁さんが所蔵していたという、貴重な古書や舞台資料も大量に出回っていました」(古書店関係者)
 
実は、これらの品々は猿翁が妻・藤間紫さん(享年85)と愛の日々を過ごしていた軽井沢の別荘『おもだか山荘』で保管されていたものだった。

「山荘には資料収集魔としても知られていた先代・猿之助(猿翁)の書籍や舞台衣装が大量に置かれていました。山荘は管理費や維持費がかかるということで、売却が決まっています。息子さんの中車(香川照之)たちが、荷物を整理して山荘から少しずつ運び出していました。それらの品が、どんな経緯をたどったかはわかりませんが、売りに出されてしまったのでしょう。私たちとしても猿之助の名前がついた品が、そんな値段で売却されているなど情けないかぎりです」(澤瀉屋の後援者)

現在、パーキンソン病のため自宅で療養中の猿翁だが、自身の愛蔵品が叩き売られていることを果たして知っているのだろうか。

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