「『エリザベート』は、夢のような世界を漂っていたかと思うと、突然、喉元にナイフを突き付けてくるような……。すごく演劇的な仕掛けだと思います。その手綱を握って空想と現実の世界とをお客さんに体験させてあげられるのが、狂言回しの役割もあるルキーニだと思うんです」
そう語るのは、6月28日開幕のミュージカル『エリザベート』に、エリザベートを暗殺するルイジ・ルキーニ役で出演する成河(そんは・35)。ハプスブルク帝国最後の皇后・エリザベートと黄泉の帝王・トート(=死)の禁じられた愛の物語で、王家の滅亡を幻想的な世界観で描く。
近年、名曲のヒットなどでミュージカルは人気を博しているが、まだまだどの作品を見ればいいのかがわからない初心者は多いのではないだろうか。
「そういう意味では、『エリザベート』は間口が広いと思う。中世ヨーロッパの衣裳が素敵だし、シルヴェスター・リーヴァイの音楽も素晴らしい。遠い時代の遠い国の人たちのお話ですけど、ファンタジックに見ることもできるし、自分たちの物語としても受け取れる」
舞台では『十二夜』、ミュージカル『100万回生きたねこ』などに出演してきた実力派の成河。テレビドラマ『下町ロケット』では新聞記者役。1話限りの出演だったものの、まっすぐな鋭いまなざしが生き、印象的だった。
「幸運にもいろんなジャンルからオファーをいただいています。同じ場所にとどまって、同じ様式のことばかりをしていたくない。舞台と映像、僕たち作り手とお客さん……、演劇に関する垣根がなくなるといいな。問題意識を持って、作り手もお客さんも一緒に考えて成長していかないと。最近の僕は“垣根をなくす”ことを目指しています」