「1年で20級から4級に昇格した子は初めてでした。スランプや壁などはまったくなく、日を追うごとに吸収して、ほかの子の何倍も早く、強くなっていきました」
強さの秘訣の一つが負けず嫌い。4歳年上の兄も教室に通っており、兄弟ゲンカもすごかったそう。
「年の差もあり体がふたまわりも大きかったお兄ちゃんに、ちっちゃい聡太くんが『ウーッ』とうなり声をあげて向かっていくんです。絶対、『参った』なんて言いませんでしたね。最後はお兄ちゃんが『わかった、わかった』となって、やっとケンカが終わる感じでした」
大好きな将棋となると、さらに負けず嫌いは高じ、負けたときは悔しさのあまり泣きじゃくった。
「小学生名人戦の愛知県大会に出場した際、優勝候補で小学2年生だった聡太くんは、関東から来た子に負けて、優勝を逃してしまったんです。
このときの泣きっぷりは最大の号泣でした。何分、続いたかなぁ……。このまま泣かせたら、体を壊してしまうのではないかというほどの号泣でした。そんな聡太くんを黙って、ギュッと抱きしめてあげたのが、お母さんでした」
家族のサポートがあったからこそ、藤井少年の才能は順調に開花したと文本さんは力説する。
「いまの彼があるのも、家族の理解と協力、これに尽きます。お父さんはふだん、単身赴任で地元にいないんですが、戻ってきたときは聡太くんの送り迎えをしてくれていました。私が聡太くんの活躍を褒めても『うちの聡太なんて、まだまだです』といつも謙遜されていました。
お母さんは、送り迎えだけでなく他都市での大会へも付き添っていました。対局中、持ち時間が短くなると、お母さんは『息が詰まりそうになる』とハラハラして、くたくたになられていましたね」
「女性自身」2020年7月21日号 掲載