3月31日の最終回が目前に迫った、40年以上続いた深夜の人気バラエティ番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)。2月22日に放送終了が報じられて以降、過去の放送回や人気企画を惜しむファンの声がネット上でも相次いだ。
そんななか、番組の顔でありMCを務めるタモリ(77)のここ最近のある発言が、議論を呼んでいた。
それは、番組終了が発表される直前の2月18日に放送された『タモリのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で、ゲストの星野源(42)から「最近、なにか悪口ってありますか?」と聞かれたときのこと。「最近は言ってないねぇ、言おうとも思わないし」と答えたタモリだったが、「ただ、テレビを観てると癪に障ることはいっぱいあって」と、ニュースを見ていて気になる事柄などを挙げて、「言葉」についてこう言及した。
「『ご飯とか食べて』とか、って言うなら他もあるっていうことだ。一応、関連するようなこと言えって」
「あと『~になります』ってのが嫌。『こちらかつ丼になります』って、もうなってんだよ。なったものが運ばれてきてるんだよ。ここに油と豚肉とパン粉、タマゴ、衣、そしてご飯があって、『これがかつ丼になります』って言うんだったら、おぉ本当? あぁなったなったって言えるんだけど」
タモリが唱えたいわゆる”若者言葉”への苦言に、ネット上では《飲食店とかで言われるとすごく気になる》《日本語の正しい意味が理解できていない若者が多すぎる》など、共感する声が多く寄せられた。
しかし、果たして本当に若者がよく使う「とか」「~になります」は、日本語として不適切なのだろうか。そこで、日本語学者の尾谷昌則氏に話を聞いた。
タモリが挙げた2つの例に対して尾谷氏は、「使いかたとして不適切というわけではない」「そもそも若者言葉とは言い難い」と指摘する。(以下、カッコ内はすべて尾谷氏の発言)
「まずは『とか』についてですが、実は、1987年に朝日新聞が、若者が乱用する『とか』を『とか弁』と名付けて、記事に取り上げています。80年代当時に10代~20代だった若者といえば、現在は50代くらいでしょうか。若者、とは言い難いと思いますし、もう言葉として浸透していてもいいと思うんですよね」
さらに、当時はあくまでも若者が口癖のように乱用することが問題視されているだけで、その意味合いが誤っているという指摘はなかった。実際、現在使われている「とか」も、本来の意味合いから大きく外れているわけではないという。
40年近く使われているはずの「とか」が、いまだに問題視されてしまう理由について、尾谷氏は「聞き手の想像力の欠如」が原因ではないかと推察する。
「そもそも『とか』には、疑問の『か』があるので、自分がよく知らないものや他人の言葉を引用する場面で使用することで、断言を避ける意味合いを持っています。ただ、一般的には『AとかBとかCとか』と具体例を並びたてる使いかたのほうがよく知られているので、タモリさんが『ご飯とか食べて』に対して『他に何があるんだよ』と指摘したように、具体例が1つしか挙げられていないことに違和感を覚えるのでしょう。
でも、話し手は言葉にしていないだけで、ご飯以外にもパスタや他の軽食などの選択肢があるから、『とか』を使っているんですよね。ところが、聞き手には言葉にされた以外の選択肢が思い当らない、想像できない。言葉になったものしか理解しないで、それ以外にも色々あったのかな?っていう想像を働かせることが、少なくなってきているんじゃないのかなと。
いくらなんでも、他に選択肢がない状態で『~とかあります』という人はまずいないでしょう。『このお店には何があるの?』『ビールとかあります!』『他には何があるの?』『え? ありませんけど』みたいな(笑)」
このように「とか」については、使いかたや意味合いが決して誤りではない上に、問題視され始めた時期も鑑みれば「若者言葉」とは言い難いという。
では、「~になります」が若者言葉とは言いきれないのはなぜなのか。
「『~になります』は、2000年に入ってから書籍や新聞で問題視されるようになっているので、割と最近の話ではあります。ただ、若者言葉というのは本来、若者が友人同士での会話で使用する言葉をさします。例えば、『なんか~』『ていうか~』『~みたいな』『ワンチャン』などが、一般的に若者言葉と言われます」
そもそも、「~になります」は若者言葉の定義から外れているのだ。
「おそらく耳にするのは、飲食店などの接客場面がほとんどでしょう。なので『~になります』は、接客場面における専門用語ととらえるべきかなと思います。若者言葉と呼ばれている理由は、接客場面で働く人に大学生のアルバイトだったり、若者が多いからでしょう」
そして、接客場面で使われる「~になります」も、本来の意味合いと照らし合わせてみると大きく外れてはいないようだ。
「そもそも『なる』とは、『AがBに変化する』という意味が一般的に知られていますが、一番古くでは『動植物などが新たに生じる』という意味もあります。『植物の実がなる』『殿様のおな~り~』というのは、この意味で使われていますね。今まで何もなかった場所にかつ丼が生じる、わけですから『かつ丼になります』という言いかたは、決して間違いではありません。
さらに言えば、すでに接客場面での専門用語、丁寧表現としてある程度確立もしているので、『使うな』とすることはもう難しいでしょう」
こうした、新たな丁寧表現が生まれて定着するという事例は、過去にもあったという。
「今われわれが日常的に使っている『です』は、江戸時代の終わりごろに生まれた言葉ですよ。当時は『美味しい』と言いたいとき、『美味しい』か『おいしゅうございます』としか言いかたがなかったんです。つまり、表現が2種類しかないと、われわれは極端だと感じてしまうんですね。
今は丁寧表現として『です』『~でございます』の2種類がありますが、ファミレスなどで『~でございます』と使うのは、なんだか丁寧すぎる。でも『です』ではぶっきらぼうに捉えられそうだ、と話し手が感じてしまうんでしょう。ほど良い丁寧さ、を求めた結果として生まれたのが『~になります』なんだと思います」
今回のような言葉への違和感や新たに生まれる言葉への指摘は、今後も声が上がり続けるだろうと、尾谷氏は推測する。
「平均寿命が延びていることで、世代ごとに使う言葉と使わない言葉がどんどん浮き彫りになっているんですね。時代の流れとともに、コミュニケーションのスタイルや価値観も変化していますから、中高年のかたには理解しきれない表現が生まれることもあるでしょう。
ただ、違和感を覚えたときには、ぜひ一度辞書などでその言葉の意味を調べてみてほしいなと思います。日本人だからと言って、日本語の全てを把握できている人など少ないんですから」