11月中旬、神奈川県横浜市の閑静な住宅街。ある家の庭で、白髪を上品にまとめた女性が木製の椅子に腰を下ろしていた。草笛光子(90)だ。
この日行われていたのは、草笛の主演映画『九十歳。何がめでたい』のロケだった。
作家・佐藤愛子(100)が90歳になったのを機に“老い”や“現代社会”について、つづった同名のエッセイが原作。
草笛は10月のクランクインとほぼ同時に90歳を迎え、
「毎日老いと闘っていますが、90歳と闘ったら損。闘わないように受け入れて90歳を大事に生きてみようと思います」
とコメントしていた。
年を重ねてもなお女優業にまい進する草笛だが、’21年、インタビューでこう語っている。
《実は、耳がよく聞こえなくなり、補聴器を使うようになった》(『婦人公論』’21年11月9日号)
一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、補聴器をしている場合、
「一般的な会話での声の大きさが60~70 dBですが、難聴の方の中には、それより少し大きな70~80 dBの音でも響いて聞こえることがあります。
また正常の聴力であれば十分聞いていられる90 dBの音だと、聞いていられない程不快に感じることも難聴のある方の一部にいらっしゃいます」
という。この日のロケで草笛は補聴器を着用していなかったが、スタッフは常に小声。近所で行われていた道路工事も一時的に止められ、静寂のなかで撮影が進められた。
「通常、ロケではスタッフの大声が飛び交うものですが、草笛さんの耳に負担がかからないよう、スタッフも注意を払っているのでしょう」(制作関係者)
草笛自身も、役を演じ切るために努力を欠かさない。
「かねて草笛さんは、『女優をまっとうするのが私の人生』と話しています。生涯現役を貫くため、腰に8キロの重りをつけてスクワットをしたり、階段の上り下りをしたりと日ごろから足腰を鍛えているそうです。
“毎朝生のセロリに塩をかけて食べる”という独自の健康法も長年続けているといいます」(前出・制作関係者)
ロケ現場の沈黙が90歳の草笛をさらに輝かせるに違いない。