5月21日、1年3ヵ月ぶりの待望のアルバム『chronicle.』をリリースした安藤裕子。「海原の月」(映画『自虐の詩』主題歌)、「パラレル」(NTV系『音楽戦士 MUSIC FIGHTER』エンディングテーマ)、「ぼくらが旅に出る理由」(ご存知オザケンこと小沢健二の名曲をスカパラ茂木氏とデュエット!)を含む全1213曲が収録された本作は、多面的な情感を美しく言葉に置き換えた完成度の高い詞と、メロディアスで表現力豊かな声が実に魅力的だ。レコーディングについて、また6月7日から行われるアルバムツアーAndo Yuko Live 2008 ”Encyclopedia.”に向けての想いも合わせ、今年10周年を迎えた安藤裕子の現在を聞いた。[E:note]アルバムの1曲目「六月十三日、強い雨」は「たとえ……」という安藤さんの声から始まる印象的な歌ですね。安藤 これは遠藤周作さんの『女の一生』からインスピレーションを受けて作りました。長崎のキリシタン弾圧が物語の背景で、愛のためにすべてを捧げた女性キクの人生を綴った小説です。[E:note]どのような部分に惹かれたのですか?安藤 キクは病気になって、男にゴミのように捨てられるんです。でも好きな人への想いは変わらない。そのパワーに圧倒されたし、女として誰かに出会えることに幸福を感じて進む強さも感じました。古風な生き方に憧れているんです。現代って本当にいろんなことが氾濫している時代でしょう。もう少し情報が少なかったころに生きた人たちのような、純粋でまっすぐな人になりたいと思います。[E:note]アルバムもそんな純粋さが感じられる出来ですが、「chronicle(年代記・編年史)」という言葉をタイトルにしたのは何か意味が?安藤 完成したアルバムを聴いて、自分の歴史を綴ったようだなと感じました。曲を聴きながら遠い昔の記憶、それこそ若い母の笑顔や、自分の子供のころの姿、それから不思議なんだけど私の未来までいろんな映像が走馬灯のように見えてきて。なんだか「今」が終わっていく感じがして、切なかったです。[E:note]以前にも「変化することや終ることが怖い」という発言をされていますね。安藤 その恐怖感はまだ克服できていませんが、ただこの1年間はずいぶんと変化の途上にいたみたいです。「私は生まれてから30年間歴史を刻んでここまで来たんだ」という絶対的な確信がありました。それで「chronicle」という言葉が浮かんだんです。[E:note]「クロニクル」という言葉は村上春樹さんの小説『ねじまき鳥クロニクル』を連想するのですが……。安藤 ええ、最近私も読み直しました。10代のころに読んだときは、主人公の「僕」はオジサンだったのに、同い年になっていてビックリして(笑)。と同時に、ただのファンタジックでドリーミーな妄想小説だと思っていたのが、今の年齢で読み返すと現実的でリアリティがあって、奥深い話だなと思いました。村上春樹をまとめ買いして、翻訳本まで読んでいます。今更だけど、今一番逢いたい人です!