「片方の耳が聞こえない女のコのお話です。雨の日に傘を差すと、右側にしか雨が降らないんですね、左側は聞こえないので。雨が上がって、傘を閉じたとき、そのヒロインが『半分、青い。』って言ったら、とても素敵ではないか、と」

 

今年2月、NHKで開かれた共同インタビューで現在放送中の連続テレビ小説『半分、青い。』の脚本家北川悦吏子さん(56)は、ドラマの着想についてこう語った。壇上の北川さんの表情は、少し硬いようだった。公の場に立つのは、久しぶりのことだった。

 

『素顔のままで』(’92年、フジテレビ系)で、脚本家デビューして以降、『愛していると言ってくれ』(TBS系)、『ロングバケーション』(フジテレビ系)など名作を次々に執筆。毎年のように大ヒットを飛ばし、“ラブストーリーの神様”とまで呼ばれた北川さん。’00年の『ビューティフルライフ〜ふたりでいた日々』(TBS系)は、最高視聴率41.3%という驚異的な数字を記録した。

 

しかし、’00年代に入ってからは、映画など発表するも、ドラマの発表作品は減っていく。’16年にNHK初執筆である『運命に、似た恋』(全8回)を発表するが、『半分、青い。』は、北川さんにとって8年ぶりの“長いドラマ”だ。

 

この間、北川さんは、次々と重病に襲われる日々を送っていた。

 

’99年、潰瘍性大腸炎を発症。入退院を繰り返した末、大腸の全摘出手術を受けている。’12年には突然、左耳が聞こえなくなり、聴神経腫瘍が見つかった。翌年、’13年には直腸に穴が開いているのがわかる。

 

『半分、青い。』の執筆中も、実は2度、入院している。プロデューサーの勝田夏子さんは、執筆中の北川さんを見て、「書くことが生きることなのか、生きることが書くことなのか」と、感じたという。

 

「北川さんは、入院しても筆のペースが落ちない。むしろ、入院中のほうが研ぎ澄まされていました」

 

4月の放送開始以来、視聴率も週平均で20%超と好調をキープしている。「漫画家編」では、北川作品の常連俳優・豊川悦司演じる漫画家・秋風羽織がブレーク。「漫画家編」が終了すると「秋風ロス」なる言葉がネットをにぎわせた。

 

“神回”を予告するなど、自身のツイッターで吐露する北川さんのストレートな本音は、ときにネット上で物議を醸し、ニュースサイトで話題にもなった。見事に復活を遂げた北川さん。今月29日の最終回に向け、物語も加速する。

 

脚本を7月30日に脱稿し、濃紺のシックなワンピース姿で応接室に現れた北川さんは、かなりテンションが高めだった。朝ドラに登場した漫画の単行本を持参すると、満面の笑みを浮かべ、少女のように声を弾ませる。

 

「あっ、『あしたのジョー』だ!律くん(佐藤健)がドラマで音読しましたよね(笑)」

 

耳の腫瘍は、現在、経過観察中。直腸の穴の問題は、2カ月に1度、免疫抑制の強烈な点滴治療で対処している。

 

「医者としても手探りで、何年もつのか、このまま行けるのか、というところで治療していると思います。前例がほとんどないそうで」

 

それでも元気なときは、ジムに行き、マシンやエアロビクスをするそうだ。勝田さんは、こう話す。

 

「北川さんには、ドライな死生観がある。生きていても、死んでいても、それは薄皮1枚のこと。それを不謹慎と捉える人もいるでしょうが、救われる人もいる。その死生観が、ユニークに昇華したのが『半分、青い。』の世界観です」

 

20年の闘病は、苦難であると同時に独自の死生観を形成し、作家としての強烈な個性になっていた。

 

「ある種の暗さ、重さ、リアルさ。人生って、最後にホームランを打って、終わりじゃないから。でも、病気ではなく、元気だったら、よかったなあというのが、正直な本音ですけどね」

 

ギリギリのところに追い詰められたとき、北川さんは人を頼る。

 

「『もう死にたい』と言ったとき、『私のために生きて』と、言われたことがある。病気込みで、私と付き合ってくれる人がいる。そういうところで築いたリアルな人間関係は、病気があるからこそかもしれないですね。私の財産です」

 

脚本家は、天職だ。

 

「脚本の仕事は、1人では成立しない。スタッフがいて、キャストがいて、皆で作り上げるということが、私を助けたんじゃないかなって思っています」

 

『半分、青い。』を書き終えて、「真っ白な灰になった」と、笑う北川さんだが、すでに書きたいものがあるという。次に目指すのは大河ドラマか?

 

「ねぇ。大河、私は発注してもらいたいです。そして、断りたい(笑)。絶対断るから、安心して発注してみて、って勝田さんには言いましたけどね。旦那は、『とか言って、オファーされたら、やるって言うよ』って言って、笑ってました。お調子者ですからね、私。でも、実は、アニメに興味があるんです。ドラマとは全然違うノウハウみたいで、興味あります」