林家木久扇の死生観「くだらない落語が自殺を食い止めた」

「『笑点』もリモートになっちゃいましてね。でもYou Tube始めたり、コロナ時間でもあんまり暇ではないんですよ。82歳にして元気だって?笑ってくれたらいいんですよ。いろいろやって、ときにはバカやって、自分も一緒になって笑うんです。それでひと様の命、助けたこともあるんだから。認知症とか、終活とか、そんなことが話題だけど、笑いとばせばいいんですよ。そうすればニッポンは明るくなりますよ――」

 

世界一の長寿演芸番組『笑点』の人気者「木久ちゃん」こと、林家木久扇さん(82)は今年、落語家人生60年の節目を迎えた。長い落語人生、印象的だったことはたくさんある。そんななかでも、“人の命を助けた”エピソードを話してくれた。

 

「そうそう、大袈裟ですけど、落語で人助けができたこともあるんですよ」

 

それは01年10月、急逝した三代目古今亭志ん朝の告別式のあとのことだった。

 

「葬儀のあと、用事があって地下鉄に乗って。すいた地下鉄の車内で僕、落ち込んでたんですよ。志ん朝さんと僕は1歳違いですから。『兄さん、無理して落語勉強しすぎちゃって、疲労がたたったのかな』なんて思いながらね。すると、向かいに座ってた初老の人が近づいてきたんです。ああ、いやだな、こんなときにサインかな、なんて思ってたら……」

 

その初老の男性は「木久蔵さん、私、あなたにお話があるんです」と声をかけてきた。

 

「聞けば奥さまに先立たれ、経営しているギャラリーもバブルが弾け絵がさっぱり売れないとかで。『もう、生きてるのが面倒くさくなって、死んじゃおうと思ってた。そしたらラジオからあなたの声が聞こえてきて』って。演芸番組で僕の落語を聴いたんだそうです」

 

男性はさらに真剣な眼差しで、言葉を続けた。

 

「それ聴いたらね、あまりにくだらなくて……、私は死のうとしてるのに、同世代の人がこんなくだらないこと喋ってる……、あ、これでいいんだな、そう思ってね。死ぬのを思いとどまったんです」

 

そして「ありがとうございました」と、男性は頭を下げたという。

 

「落語ってね、バカバカしくてもいいんです、くだらなくてもいい。う?んと笑っていただくことで、人助けにもなるんだなって。それはね、志ん朝さんの告別式のこととつながってるから、よく覚えてるんです」

 

気づけば『笑点』では最古参となった木久扇さん。レギュラー出演を続けて、はや半世紀が過ぎた。

 

「僕ね、司会者をこれまで5人、送ってるんです。だから(春風亭)昇太さんにシャレで言うんです、『座布団くれないと送っちゃうから』って(笑)。高座でウケるのは『私、5人の司会者を送っております、いつも香典は3万円ずつ、『笑点』は金がかかる』って話ね」

 

木久扇さん自身、00年には胃がん、14年には喉頭がんを患った。

 

「でもね、一晩で10万人以上が亡くなった大空襲を経験してますから。がんなんて自分1人の事件、たいしたことありません。それに僕のなかではあの空襲で一度、自分は死んだという思いがあって。あそこまでが第一幕と。だから、そこから先の人生は、『生きてて得した』と、ただただそういう気持ちなんです」

 

昨今、流行りの終活については「あんなバカげたことはない」と一蹴してみせる。

 

「終活してるその時間ってのは、死ぬことを考えてるんですよね。それはね、生きてるってことに対して、とっても失礼ですよ。そんな時間があるなら、おいしいものでも食べて笑ってたほうがいい。認知症が何かと話題ですよね、『自分がなったらどうしよう』と怯えてる人も多いようですけど。そんなもの、笑いとばせばいいんです。僕の理想の死に方はね、『お父さん、このごろ起きるの遅いの。ちょっと見てらっしゃいよ』『なんだかね、お父さん死んじゃってるみたいよ』『あ、そう……』って(笑)。こういうのが面白いっていうか、さっぱりしてていいんじゃないかな、と思うんです。人生を自分で見限って、早々に店じまいなどすることありませんよ。だから僕は終活なんてしない。広げたまんま、散らかしたまんま、いなくなっちゃうことにしています」

 

「女性自身」2020年8月18・25日合併号 掲載

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