鉄壁のコロナ対策でインタビューに臨んだ「戦々恐々としてますよ」 画像を見る

「80代になって、あちこち衰えてきたのがわかってきたんで」

 

そう話すのは数々の怪演、名演で知られる伊東四朗(83)。私生活での伊東は、ことのほか家族を大切にしている。

 

結婚は66年。妻・冷子さん(74)との間に男の子が3人。照れ臭いのか、妻や家族の話になると言葉を濁しがちだった。

 

「結婚したのはあたしが29歳で、女房が二十歳のときです。馴れ初め? いや、それはちょっと……謎ってことにしといてください」

 

仕事に関して全く口を出さない奥さんだ。

 

「だから、余計にプレッシャーがかかったの。あたしが出たドラマやコントを一緒に見ることはあります。だけど、感想は一言も言わない。余計に不気味なんですよ。舞台があると必ず初日に来ます。いちばん趣味、悪いですね(苦笑)。いまだによく把握できていないのです、女房のことは」

 

伊東の子煩悩ぶりにも驚く。

 

「男の子、3人ですから。あたしも手伝いましたよ。おしめも替えたし、風呂にも入れた。仕事で遅くなって、寝てたりすると、もう、ガッカリで」

 

息子3人のうち、次男・孝明が役者の道に進んだ。孝明は、父との対談のなかでこう話している。

 

《家にいるときは寡黙で、大きな声で子どもを叱ったこともない。(中略)参観日も運動会も必ず来てくれたし、遠足で家の前を通るときなんか、長い行列の中から僕を探して手を振ったり8ミリ回したり》(『オブラ』’04年5月号)

 

伊東は、仕事が終われば、寄り道もせず、まっすぐ家に帰る人だ。

 

「芸能界に飲み仲間はいないし、表で飲むことはほとんどない。パッと区切りたいんですよ。帰りの車に乗ったら、スパッと本名の自分に戻っていたいんです」

 

奥さんは料理上手で、それも家に帰りたい大きな理由のようだ。

 

「いちばん好きなのは味噌汁ですね。味噌からつくってるから、10年くらい前からかな」

 

梅干しも手作り、ぬか漬けも絶品。ぬか床をかき回すのは、伊東の役目だという。

 

伊東四朗が明かす父の顔「おしめも替え、風呂にも入れました」
画像を見る 「女房に言わせると、2人のときは能面みたいに笑わないそうです。ふだんは無口ですよ。こんなに喋らないです」

 

趣味は脳トレだ。

 

「とにかく脳だけはしっかりさせておきたくて、円周率を覚え始めて、いまも続けているんです。円周率は小数点以下1千桁までブツブツ言って、百人一首を全部、昔の日本の国の名前を68カ国、出羽の国からピシッと言って、それからアメリカ合衆国の50州、大リーグの30チーム、Jリーグを18チーム。Jリーグは毎年、3チームが入れ代わるから、変化があって刺激になるんですよ」

 

83歳でこの暗記力は驚異的! 加えて、妻と一緒にウオーキングもしている。ステイホームですっかり日課になった。

 

「女房とは別々に歩いてましたが、80歳になって、とうとう一緒に歩くようになりました。これはいいことなのかなと思ってる。必ず1万歩目指して、会話もできるし。まぁ、一緒に、というのは、『最近、体のバランスが悪くなったな』と、あちらが考えてくださったんじゃないですか。外で何かあったら、一人じゃ大変だからって、ハハハ」

 

老いの不安が忍び寄る。4年前、79歳で運転免許証を返納した。

 

「高齢者講習で、幼児に対するような話し方をされて、自尊心がズタズタになりました」

 

引退も少しは視野に入っている。

 

「ま、あたしは自然消滅がいちばんいいなと思ってる。『伊東四朗、最近、見ないね』『やめたみたいだよ』『へ~っ』って、いつの間にかいなくなってるというのが理想です」

 

そんななか、今回、伊東は3年ぶりの新作舞台に挑むのだ。

 

「70代は全然、衰えがなかったもので、楽観していましたが、80代に入って、あちこち衰えてきたのがわかってきたんで。1つ芝居をやるって、こんなに大変なんだって、今回、初めて感じていますよ」

 

セリフを完全に覚えて稽古に入るのが、伊東の信条だったが、少し弱気になっていた。

 

「今回は台本を見るんじゃないかな。また、セリフが多くて……。いや、本来だったら、普通の量なんでしょうけど、多くに思えちゃってるってことですね、いまは。すごくピリッとしてますよ、自分で。ここまでの緊張感は、初めてです」

 

きっと日ごろの脳トレとウオーキングが力を貸してくれるはずだ。孫は4人。

 

「以前は孫を家に呼んで、一緒にご飯を食べていたんですけど、去年からは(コロナ禍で)できない。正月に久しぶりに会ったんですけど、玄関先で『おめでとう』って言って、帰っていきましたけどね。いつの間にか孫があたしの身長を追い抜いていたっていうのが、これがうれしいショックでしたねぇ。13歳、中1の孫なんですがね。

 

しょっちゅう会えば、少しずつ成長していくのを見て楽しいはずですが、コロナ禍っていうのは、やっぱり不幸ですよ。外に出られないのは苦じゃないけれど、孫と会えないっていうのはね。本当に『コロナめ!』と思っていますよ」

 

楽し気に語っていた伊東の表情が、少しかげる。「最後の喜劇人」と名高い伊東の、貴重な家庭人としての顔が垣間見えたインタビューだった。

 

「女性自身」2021年3月9日号 掲載

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