水沢アキ歩むスタジオオーナーの道「夢を応援できるのが嬉しい」
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「はい、ブロンクスレンタルスタジオです。ああ、先ほどはありがとうございました。え、忘れ物? わかりました。いま次の方がスタジオを使用中なので、終わり次第、探して連絡させていただきますね」

 

声を弾ませながら、彼女は電話の向こうの相手に対して、何度も何度も頭を下げていた。不意の電話でインタビューが中断するのは、これでもう3回目だ。

 

「ごめんなさいねぇ。たいへんなんですよ、ひとりでやってるから。もうね、休んでる暇がないの」

 

こう言って、屈託のない笑みを浮かべるのは、女優の水沢アキさん(66)だ。17歳で、芸能界デビュー。以後、ドラマに歌、クイズ番組にバラエティにと、多方面で活躍してきた。

 

人気に火をつけたのがグラビアだった。19歳、雑誌『GORO』で写真家・篠山紀信氏が撮り下ろす「激写」に登場すると、若い男性を中心に人気が沸騰。ダウンタウンの松本人志も「いつもは立ち読みだけど、水沢さんの号は2冊買った」と、後に語ったほどだ。

 

しかし、最近は芸能界と距離を置いている、とも話す水沢さん。いま、彼女の生活の中心にあるのは、数年前から自身がオーナーを務める東京・下北沢のレンタルスタジオだ。オーナーといえば聞こえはいいが、スタッフはホームページの担当者が1人いるだけで、冒頭のような電話応対や受付、予約の管理、それに掃除、もちろん入出金の管理と、ほとんどすべてを水沢さんがひとりでこなしている。

 

「土足厳禁なのに、土足で入っちゃう人もいれば、私が不在だと勝手に時間延長して使ってた人たちも。もちろん注意しますし、文句も言います。すぐ謝ってくださるお客さんもいれば『二度と来ねえよ!』って逆ギレする人も。いろいろね、たいへんなんです」

 

そんな言葉と裏腹に、水沢さんの顔は、とても晴れ晴れとしていた。

 

水沢さんがスタジオ運営に関わるようになったのは、ある時テレビに出演した水沢さんの息子が「虐待をされていた」と告発したことがきっかけだったという。

 

「私は父に似て熱心な教育ママでしたから、子供たちに厳しく当たることはありましたけど……、その部分だけを切り取られ、かなり大げさに仕立て上げられてしまった、そんなふうに思いました。でも番組放送後、私、干されちゃって(苦笑)。1年間、ほとんど仕事ありませんでした。でもね、醜聞で仕事がなくなるっていうのも芸能界。ここで生きてる以上、当たり前のこと。そもそも、息子としっかりコミュニケーションがとれてなかった私のまいた種です」

 

テレビなど芸能の仕事が急減したとき持ち掛けられたのが、ダンススタジオの経営権を譲りたい、という話だった。

 

「60歳目前でした。還暦を迎えたら新しいことをしたい、そんなことを考えていたときで。じつは私、中学生のころからクラシックバレエやジャズダンスをやっていて。そのスタジオでも、40代からダンスを習っていたんです。私以外にも生徒は大勢いましたし『発表会やると儲かる』なんて聞かされて、それで15年に、多額のお金で経営権を買ったんです」

 

ところが、ふたを開けてみれば、ダンススタジオは大赤字。68人ものスタッフを抱え、人件費だけでも毎月たいへんな支出だった。

 

「そのうえ、儲かるはずの発表会のチケット代を持ち逃げされたり、経費を使い込まれたり。もう地獄のような日々でした」

 

それまで経営などとは無縁だった水沢さん。知り合いの社長に帳簿を見てもらうと「明日にでも潰すべき」と助言されたという。

 

「でも、ここでやめたら投資額が全部、無駄になっちゃうと思って。何か違うことができないか必死になって考えて。それで始めたのが、いまの1時間いくらでスペースを貸すレンタルスタジオ。人件費もかけられないから24時間、私がひとりでやってるんです。おかげさまで、お客さんがゼロの日がないんですよ。コロナ禍の時代に、本当にありがたいことに」

 

スタジオの使用料は1時間2,420円。深夜パックは6時間半で6,600円(ともに税込)だ。

 

「芸能界の仕事と比較するとゼロが2個ぐらい違いますけどね(笑)。でもね、若いダンサーのグループが深夜パックで稽古していたりするんですけど。二十数人だからリーダーが1人300円ずつ徴収しているんです。それを知ったら、この6,600円ってすごい重いですよ。だから、いまは儲けは度外視。ここで、いろんな人たちの夢を応援できるのが、何よりうれしいし、ありがたいんです」

 

ここでまた、彼女の電話が鳴った。すかさず通話ボタンをタップすると、いつものように、元気いっぱいの声で答える。

 

「はい、こちら、ブロンクスレンタルスタジオです!」

 

「女性自身」2021年4月13日号 掲載

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