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7月22日に公開された映画『犬部!』。大学の獣医学部に通う主人公が、動物を安楽死させる外科実習に真っ向から異を唱え、「1匹も殺さない」「生きているものは全部助ける」を目標に、仲間と「犬部」を結成するという内容だ。

 

この映画の脚本を担当した、映画監督で作家の山田あかねさんに、林遣都さん演じる『犬部!』の主人公のモデルになった獣医師、太田快作氏のことと、日本の犬猫の殺処分の現状、そして、台湾で殺処分がゼロになった理由について聞いた。

 

制作会社のプロデューサーから、『犬部!』の脚本を書きませんかというオファーがあったのは、2018年の秋のはじめ頃です。原案は刊行された時にすでに読んでいたのですが、20年くらい前の話だから、動物愛護をめぐる環境がすごく変化していることもあり、難しいだろうなという思いがまず先にありました。

 

私はドキュメンタリーの作り手として動物愛護ものを長く手掛けてきたのですが、この世界には細かい点を突いてくる人たちがたくさんいて、そこをリアルに作りこまないと中途半端なものになってしまいかねません。

 

動物愛護をテーマにすると色んなことが起きるよ、バッシングされる可能性もあるよ、その覚悟がありますか、ということを、プロデューサーに念押ししました。「覚悟はある。戦うつもりでやる」と言うので、「じゃあ、やってみます」という感じでスタートしました。

 

まず主人公のモデルになった太田快作さん(東京・杉並「ハナ動物病院」院長)に会いに行きました。太田さんは40歳手前の爽やかな好青年という印象でしたが、2時間ほど話を聞いていくうちに、自分が知っている獣医さんの中でも、この人は突き抜けてるなと感じました。

 

「犬や猫を1匹たりとも殺したくない(殺処分にしたくない)」ということを言い続け、それを実践している。その志は、「犬部」を作った20年前と少しも変わっていません。診療はもちろんのこと、私生活も犠牲にして、動物のために24時間捧げている。福島の被災動物を日帰りで診療した後は、過労で倒れたこともあったといいます。

 

「求められる限りは求められるものを提供したいと思っている。診察にしても予約がいっぱいってことで断ったりしない。延長すればいいこと。僕でいいって言ってくれる動物と飼い主さんがいることが喜びなので。働くことは全然構わない」

 

「動物愛護活動は僕自身のすごく大切なこと。それを否定したらおかしくなる。殺される状況にある犬や猫がいる限り。彼らにとって、どんなときでも味方でありたいとずっと思ってきた。そう約束したから……。犬や猫たち、動物が見ているような気がする。僕がうっかりお金やしがらみを理由に命を救わなかったりしたら、怒られそうでいやなんです」

 

太田さんの口から、そんな言葉が自然に出てくる。

 

「すごい人だなあ、絶対(脚本を)引き受けよう」。太田さんは飛び抜けたとんでもない人なので、彼を話の中心に据えれば、振り回された人も含めて描けるだろうな、という手応えありました。

 

ちょうどその頃、NHKの「家族になろうよ」という3時間のスペシャル番組を作ることになり、それに太田さんにも出てもらおうということになりました。番組では海外の犬猫の殺処分についても紹介されし、私はかねてから興味のあった台湾の現状を取材しました。

 

台湾に興味を抱いたのは、2017年に犬の殺処分をやめたからです。ちなみに、日本は減少しているとはいうものの、1年で約3.8万頭(犬7,687頭、猫30,757頭/環境省・2018年)もの犬猫が処分されています。日に換算すると105頭にもなります。

 

台湾が殺処分をやめることになったきっかけは、2013年公開の「十二夜」というドキュメンタリー映画です。台湾では、保健所に収容された犬は12日後に処分になるのですが、それを淡々と描いた作品です。「十二夜」が大ヒットして、台湾は殺処分ゼロに向けて進みはじめました。その過程のなかで、2016年ひとりの獣医師が亡くなります。動物愛護センターの獣医さんが32歳の若さで自ら命を絶ったんです。遺書には、「私の死によって、捨てられた動物にも命があるということを知ってほしい。問題の本質に向き合ってほしい」 と書いてあったといいます。これは台湾で大きく報道されました。

 

その獣医さんは非常に優秀で、「殺処分を止めたい」という思いから動物愛護センターに就職。改革を繰り返しながら、処分数を減らしていきました。その過程で、台湾は2017年までに殺処分をゼロにすることを決めました。「殺処分ゼロ」というのは理想的な目標ですが、準備が整っていないなかで、突然処分をやめてしまうとセンター内が過密状態になり、犬たちにとってもつらい環境になると、その獣医さんは、頭を悩ませていたといいます。

 

その方は処分をする時に、散歩をさせて、ご飯をあげた後、腕の中で注射をしていたといいます。その注射を自分に打って、亡くなったんです。その方が死を選んだ本当の理由はわかりません。ただ、犬の命を奪いたくないという真摯な思いと立ちはだかる現実の前に苦闘していたのだと思います。

 

6月に太田さんについて書いた『犬は愛情を食べて生きている』というノンフィクションを出したんですが、その中で、渡辺宏さんという八戸の保健所で働いていた方を取材しました。彼も殺処分をするのが辛くて、何度も犬の焼却炉に自分も入って一緒に焼いてほしいと思ったといいます。台湾の獣医さんや渡辺さんのような、ギリギリの思いでやらざるを得ない人がいるということは、映画の中で伝えたいなと思いました。それが、中川大志さんが演じる柴崎涼介に反映されています。

 

林遣都さん演じる主人公の颯太は、猪突猛進で思いついたら突っ込んでいってどんどん解決するタイプ。こちらは、太田快作さんがモデルです。一方、柴崎は冷静に考えてシステムから変えていく、理論を重ねていって殺処分ゼロをめざすというタイプです。ふたりを「静と動」の真逆のタイプにしようと考えたんです。だけど理論でおしていこうとした側が理論に負ける、理論だけでは解決できない辛さがあるじゃないですか。そういったことを、柴崎というキャラクターを通して表現したいと思いました。

 

台湾では、不幸な事件もありましたが、2017年、殺処分ゼロが達成されました。そこにいたるまでには、亡くなった獣医さんをはじめ、現場で闘ったたくさんのひとがいたんです。彼らの努力を忘れたくない。動物の命を犠牲にしたくないという思いに国境はない。思いは同じだと思います。いつか日本も殺処分をやめる日が来ると思うのですが、その日まで、太田さんは奮闘を続けるだろうと思っています。

出典元:

WEB女性自身

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