■“今日がいちばん元気な日”――日々進行する病気だからこそ、毎日がいとおしい
「ちょっと、今日は飲もうか」
夕食のとき、津久井さんが言うと、雅子さんは350mlの缶ビールをプシュッと開けて半分こにする。以前はビールは入口で、その後にワインやハイボールに進んでいた夫婦。でも、今はお互い、わずかの酒量で酔ってしまう。
「やっすい男になったねー」と言う雅子さんの言葉に、津久井さんも「おまえもやっすい女になったねー」と逆襲。
コロナ禍もあり、雅子さんと過ごす、穏やかな時間が増えた。たまの晩酌に喜び、一緒に見るテレビの凶悪事件のニュースに怒り、五輪で泣き、知り合いのナレーターの“甘噛み”を楽しむ。
「今さらですが、ALSになって、喜怒哀楽を共にできる妻がそばにいてくれてよかったなって思う。周りの友人からは『気づくのが遅えよ!』って怒られますが(笑)」 そして、これからも夫婦で好きなことに挑戦していく。
「ALSは難病だけど、闘ってるつもりはないんです。だって治療法が見つかってないんだから。ただ、支配はされたくない。あくまでボクの人生の中に、ALSがあるんです」
日々進行する病気だからこそ“いちばん元気な今日”を、いとおしく、そして大切に生きていく――。