■「たとえ劇場のモギリでも、私は芝居とずっと関わっていきたい」
「今、闇バイトとか、どうやったら人をだまして簡単にお金がもうけられるかという人が目立ちます。それに比べて、うちなんかにやってくる若い劇団員たちは不器用だけど実直なだけに、なんとか輝かせてやりたいと思うんです。
どうやったら、父の代から言われ続けている『新劇でメシは食えない』というのを破れるかと、いつも考えています。その一つの私なりの解答が、公演数を増やすことでした」
愛さんの語るとおり、6月から9月までの『旅立つ家族』の公演に続き、年内だけでも劇作家・三好十郎が主人公の『好日』やゴッホの苦悩を描いた『炎の人』の上演が待つ。
制作担当で、新人劇団員のケアもする明子さんは、
「コロナもあって、『舞台俳優をやりたい』という人が来るだけで奇跡(笑)。現在、劇団員は51人ですが、その大半がアルバイトをしながらの生活です。入団直後には自己主張ばかりだった青年が、たとえば私も制作で関わった『ハンナのかばん』に出演し、ホロコーストについて学んでいくなかで、いわば人として成長していく。それも、祖母や母たちから続く文化座の伝統だと思います」
今、『好日』の稽古に琴音さんたちは没頭している最中だが、この作品に愛さんは出演しない。明子さんが言う。
「いわば“脱・愛さん”で、若い世代が自分たちでお芝居を作り上げるという、劇団としても自立のための作品になると思います」
その愛さんは昨年、傘寿を目前にして三浦綾子の小説を舞台化した『母』に主演し、「佐々木愛主演の新作はこれが最後」と語っていたが。
「ただ私は、100%女優だけだった母とは違い、演劇に関わることが大好き。舞台に立つのはもちろん、やりたい企画もあるし、たとえ劇場のモギリでも芝居とはずっと関わっていきたい。
そうそう、来年2月に私も出演する火野葦平先生原作の『花と龍』の稽古もまもなく始まるのよ」
愛さんの芝居にかける思いと共に、文化座の舞台を通じて平和への願いもまた受け継がれていく。