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【前編】「“透明な存在な人”はこの世には誰もいない」『虎に翼』脚本家・吉田恵里香さんが語る朝鮮人差別、同性愛、原爆裁判を取り上げ続けた理由より続く

 

母になった吉田恵里香さん(36)の脚本家としての快進撃は勢いが増した。『恋せぬふたり』(’22年、NHK)では他者に恋愛感情を抱かない・性的にひかれない「アロマンティック・アセクシュアル」の男女が出会い同居。“家族とは帰る場所があること”とそれぞれの人生を歩むまでを描き第40回向田邦子賞を受賞した。

 

「この授賞式に息子を連れていったことから、子供がいることが公になりました」

 

吉田さんは年の初めに、叶えたい夢をノートに書き続けている。毎年「40歳までに朝ドラを書く!」と書いていた夢が実現する─―。’23年2月、’24年度の前期連続テレビ小説第110作が、『虎に翼』に決定したと発表されたのだ。

 

「出産前の『チェリまほ』で、アロマアセクの方を描いたことから、『恋せぬふたり』につながり、その打ち合わせのときから、制作統括の尾崎裕和さんに、思いを伝え続けて『虎に翼』につながります。どれ一つ欠けても『虎に翼』は書けていません」

 

人生の目標だった「朝ドラ」執筆生活が始まった。平日、NHKまで連日通い執筆していたという。

 

「朝、BSで『虎に翼』が始まる前に起きて、息子を起こし、保育園に送ります。執筆中は私が無意識にピリピリしていたのを感じたのか、起きないし、ご飯も食べず、ぐずることが多かったです(苦笑)。保育園に送り届け、電車でNHKへ向かい10~11時に到着して、そこから息子のお迎えまでが執筆時間。昼は社食に行くか買ってきたもので済ますか食べないか。よくスタジオにも顔を出しました」

 

約8畳のテーブルとパイプ椅子、ホワイトボードの簡素な会議室から寅子の物語は紡がれていった。

 

「夕方17時45分に会議室を出て急ぎ駅に向かい18時の特急に乗れると、自転車移動も含めて18時25分に保育園に到着できます」

 

電車の車内は資料を読んだり、脚本家から母に戻る変身タイム。

 

「実家で母の作ってくれた晩ご飯を食べ、徒歩で30秒のわが家へ帰ります。息子は私の上に寝転がるのが大好き。お風呂に入る・入らない、寝る・寝ないのやりとりがあり、22時過ぎに寝室に行ってくれればいいほうですね。息子が寝れば仕事再開です。でも天井の簡易プラネタリウムをつけて、息子と一緒に寝落ちすることが多いです」

 

土曜保育も利用している。「息子は人が少ないから(平日より)いい」と気に入っているそうだ。

 

「日曜日は、どうしても仕事しなければいけない際は母や兄夫婦が息子を連れ出してくれます。でも途中から、日曜に仕事をすると、翌週1週間、彼の機嫌が悪くなることに気づいたので、彼の昼寝のときにだけ仕事しました。

 

また私は教えていないのに、保育園で学んでタオルをきれいに畳めるようになったり、風邪をひきやすかったけれど体力もつきましたね。寅子と同じように、本当にみんなに支えられています」

 

育児に奮闘しながら社会問題を描く物語は生み出されていった。ドラマ冒頭と轟とよねの弁護士事務所の壁に書かれた憲法第14条。

 

《すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない》

 

寅子の法曹の同志である男装のよね、華族の涼子、夫と離婚沙汰になる梅子、朝鮮半島出身の香淑は、憲法14条を象徴するかのよう。

 

「人権、平等、身分、門地など、寅子だけではそのテーマは描ききれなかったので、女子部の皆さんを最後まで登場させてもらいそれぞれのテーマを描きました。また、寅子も人の上に立ったときに視野が狭くなり間違えることもある。誰しも間違える、それも伝えたかった。夫婦別姓についても、令和の今、ぽっと出てきた問題ではなく、当時から“あとまわし”にされた問題だということを、皆さんに知ってもらいたかった」

 

執筆中、自宅で「朝ドラの締切りをやっつける」と話していると息子さんから「なんで“アサドラー”と戦ってるの?」と怪獣に間違われて質問されたことも……。

 

「息子の言葉に“仕事頑張ろう”と力をもらえました。毎週の執筆が楽しくて後半は『終わっちゃう。終わらないで!』と気持ちが交ざり合って最後まで書ききりました」

 

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