突き進むべき道は、より明確になっていった。同時に、名前が広く知れわたると、思わぬ悩みにも直面することに。さまざまな“儲け話”の類が田村さんに近づいてきたのだ。
「嘘をつかれたり、利用されそうになったり、かつての仲間に裏切られたこともあります。でも、人と関わることを避けていては前に進めない。僕の作品に、人とのつながりは欠かすことができませんから」
たくさんの出会いに恵まれたと田村さんは振り返る。創業100年、4代続く京都の書画専門店・松本松栄堂の松本健二郎さんとの出会いもその一つ。松本さんが語る。
「うちは雪舟をはじめとする古美術品と“100年先まで残る”と感じる美術品のみを取り扱う美術商ですから、流行の現代アートなどにはまったく関心がありませんでした。
ところが、友人と食事をしていた席で、ふと目に入ったインスタの田村大の作品に引き込まれて。なんて品のある絵だろう、と。
彼の画風に日本画のエッセンスが加われば、100年残る作品ができ上がるに違いないと、すっかり魅了されてしまったんです」
炎、水、絶滅危惧種の動物、ご神木……。松本さんからの多様なリクエストに応えるたび「田村大の新境地」が切り開かれていった。出会いから7年後、2025年春、東京都港区にある増上寺で田村さんの個展が開催された。全30点の作品が並び、来客者数は1千人を超えた。田村さんが振り返る。
「室町時代から600年以上の歴史がある増上寺で、個人の画家として個展を開催するのは初のことでした。松本さんのご尽力のおかげで実現したんです。
僕の作品を評価してくれる人が、わざわざ会いに来てくれて、絵を好きだと言ってくれて、その場で買ってくれる──。手渡しを信条とする僕にとっては、奇跡の時間に感じましたね。感謝の思いでいっぱいでした」
結果、総額3千万円を超える絵が、4日間で完売した。個展の開催にまさに東奔西走した松本さんが言う。
「うちのお客さまに、室町絵画にしか興味がないという方がいらっしゃるのですが、その方が『田村大の石の絵』に一目惚れして購入を即決されたんです。私の目に狂いがなかったと安心しましたよ。
古くから『絵は人なり』と言いますが、彼のもつ人懐っこも魅力的なんです。彼の絵を見て、実際に話をすると、誰もが応援したくなる」
増上寺で展示された絵が挿絵として掲載されているのが、美輪明宏さんの新著『令和を生きぬく貴方たちへ 未来世代が輝くミワちゃま語り20』(光文社)。この本の表紙「14歳の美輪明宏」のイラストも、田村さんが手掛けている。
完成した絵を見せるために美輪さんと対面した際、田村さんはこう語りかけられたという。
「こんなに美しく、正確に描いてもらったのは初めてです。世間にはいろいろな天才がいるけれど、あなたもその一人ね」
ペン1本でたくさんの人々を魅了する若き天才画家のさらなる活躍に注目したい――。
【INFORMATION】
発売:2025年9月22日(月)
発行:光文社
価格:2,200円(税込)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334107591/

