■「このままではダメになる」とアメリカの友人宅の部屋に
気づくと、喜怒哀楽のあらゆる感情を失っていた南さん。
「感情がない、『無』の中にいるんです。何も感じず考えられない。食事も食べられない。眠れない。家のまわりには連日マスコミの人がいて、外出もできませんでした」
友人から紹介されて、オンライン診療を受けた心療内科医から「うつ病の傾向があるので、すぐに病院を受診してください」と、言われ、精神科病院を受診した結果「重度うつ病」の診断が。
「重度うつ病と聞いた瞬間、『あっ、病気だったんだ』と、納得できました。ベッドに臥せていて何もできないけれど、私、怠けてるんじゃない、病気だったと。理由がわかって少し安堵した感じです」
女性医師に往診に来てもらい、ソファでリラックスしながらカウンセリングを受けることもできた。
「ようやく、心の中にしまい込んでいた、『2回目の結婚だからこそ、何があっても添い遂げたかった』という言葉を口にできて、初めて涙があふれたんです。感情を失っていた心が動き出しました」
その小さな兆し。それでもすぐによくなるわけではない。ほとんど寝たきりで夜は眠れず、体重も8キロ落ちていた。そんなある日。
「『このままではダメになる。ここから逃げよう』と、私は“前向きに”逃げることを選びました。その日のうちに、留学中の息子が滞在するアメリカのサンフランシスコへの航空券を予約し、アメリカ在住の友人に家の部屋を貸してほしいと連絡し荷物を詰めました」
急きょひらめいた渡米。そしてこれが転地療養になったと南さん。
「療養中、私は『語学学校へ通う』という日課をつくりました。眠れなくても、毎朝、必ず起きて朝日を浴びる。学校へ行く。もうそれだけで自分をほめてあげようと。
ステイさせてくれている友人へのお礼として、夕食をつくると、それを喜んでくれました。学校にも、毎日笑顔で集う人たちがいて、私も自然と笑顔で挨拶していて。そんな日々を送るうちに、きっかけがあるわけではないですが、少しずつ気力を取り戻しました」
とはいえ、そこは「一時的な避難場所」であると考えていたそう。
「こういう辛い思いをしたところで、自分の人生を終わらせちゃいけない。自分を生きよう。古い自分自身の固定観念を手放し心機一転、生きたいと、感じたんです」
2017年、そこに仕事の話が舞い込んできた。「長期の撮影は無理だ。誠心誠意で断ろう」と一時帰国。だが作品の話を聞くうちに気づくと出演を承諾していた。
主演ドラマ『定年女子』(NHK BS)は、仕事一筋のシングルマザーが部長クラスに昇り詰めるも、突然、役職定年を言い渡され、プライドを失い、心身を追い詰められながらも、再び歩き出す物語。
「まさに、私自身のような役柄で。そして、私は、女優の仕事を通じて、再び人と関わり、自分の言葉を取り戻し、物語の中で生きるお芝居の喜びを思い出せました。まわりの人に支えられて、仕事をリスタートできたんです」
2018年、離婚が成立。
「2度目の結婚生活をいま振り返ると、『絶対失敗したくない』というプレッシャーが当時は無意識にあったのだと思います。
どんなに長く暗いトンネルでも、必ず出口はあるんですね。いま、辛さの中にいる方にも、『人生は何度でもやり直せる』と、伝えたい」
