筒井康隆(92)長男が51歳で急死、寝たきり危機で「作家として終わった人間」と吐露も…再び老人ホームで小説を書き続ける“原動力”
画像を見る 「最後の喫煙者」という小説も書いた筒井さんは1日に数本だけ煙草を吸う(撮影:小松健一)

 

■90代で新ジャンルに挑戦

 

「たばこでも吸いに行きましょう」

 

そう言うと、筒井さんは、車いすに乗ったまま、両足を交互に動かし、喫煙室まで器用に自走した。大人3人ほどが入れる部屋で、おいしそうに煙を吸い始めた。

 

「住み心地はいいですよ。ホテルにいるような感じ。ただ規則正しくて、7時30分前に起きて、着替えさせられて、すぐに朝食です。食後は十何錠もの薬を飲むからでしょうか、10時くらいに眠くなるんです。昼飯の時間ぎりぎりまで寝ていることもあります」

 

昼食、夕食も決まった時間の規則正しい生活。夜10時には睡眠薬を飲むため、寝てしまうという。

 

「もうお酒もめったに飲みませんし、たばこを吸う以外は健康的な毎日です」

 

日課は映画鑑賞だ。

 

「作品によっては光子と一緒に見ますが、基本的には昔の名画が中心になります。いまだに映画を見ると、小説のヒントになることもあるんですね」

 

そう、筒井さんは今、精力的に小説を書き続けている。

 

「初めてハードボイルドものに挑戦しています。探偵ものですね」

 

ミステリアスで、ニヒルな探偵・犬丸邦彦が、さまざまな事件を解決していく新シリーズは、今年すでに3作品が『文學界』で発表されている。

 

「この老人施設の入居者で、現役で働いているのはボク一人くらいなものですよ。年内にも文春から単行本を出す予定です。

 

付き合いのある新潮社からも出したい長篇があって、書き始めているんです」

 

取材時にそう語っていた長篇「ノスタルジア・ゾーン」は『新潮』10月号にすでに掲載されている。

 

8月には転倒して以来、初めて東京にも行くことができた。

 

「電動車いすも購入して、乗り方の練習もしたんですよ」

 

生活を支えるのは、月1回東京から来る義娘の智子さんだ。

 

「両親の東京と神戸の家の管理があるし、両親が行きつけだった垂水のおすし屋さんなどのテイクアウト弁当も、持っていってあげたいですからね」(智子さん)

 

夫を亡くした今も、義父母に尽くしてくれる。その理由を筒井さんがブラックジョークで返す。

 

「まあ、ボクには10億円くらい遺産がありますからね」

 

すかさず光子さんが「そんなにないでしょ」とフォローして、軽妙な夫婦の会話が生まれる。

 

息子の分まで、長く、幸せな夫婦の時間を生きている──。

 

(取材・文:小野建史)

 

画像ページ >【写真あり】妻・光子さんと筒井さんの2ショット(他4枚)

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