■「お前、漫画家になれ」。ある日、気づいた妻の才能
宮田さんから紹介してもらった仕事を足がかりに、風俗の体験ルポ漫画などの依頼が舞い込んだ。回り道をしたものの、漫画家が天職だと感じた。
「自分は風俗は苦手なんですが、もう40歳近くだったし、女房、子供がいるから原稿料を稼がなきゃいけない。2~3の風俗誌から連載がきて、描きまくりました。そのなかで、セックスフレンドを募集するというろくでもない企画があったんです」
ちょうどそのときに25歳になった×華さんは、マットヘルスという名古屋発祥の性風俗店で元気に働いていた。「仕事仲間は、年齢も出身地も趣味も全部ウソ。本当の自分を出さなくていい薄っぺらいコミュニケーションが、私にとって心地よかったんです」
風俗の待機室で、夢中で読むのが実話系の雑誌やエロ漫画。
「そのなかにあった、桜壱さんのセックスフレンドを募集する漫画を読んで、応募したんです」
初対面は、新宿のコマ劇場前。×華さんが第一印象を振り返る。
「清潔なお父さんみたいな人。生まれて初めておごってもらって、エスコートしてもらったんです。ヒモみたいな男としか付き合ったことがなかったから、珍しい人がいるもんだなって思いました」
桜壱さんは「適当に話して帰ろう」と思っていたものの、×華さんが気になる存在に。
「女房からは、風俗の体験ルポ漫画が『恥ずかしい』と言われたりして、夫婦関係もすっかり冷め切っていたからかもしれません。風俗取材で熊本に行った帰りに、どうしても沖田に会いたくなって、名古屋に立ち寄ったりしました」
そんな関係が続くなか、桜壱さんは離婚を突きつけられ、元妻は長女を連れて出ていってしまった。
「部屋がシーンとなったじゃないですか。それで、まあ、あいつ呼ぼうかなと思って」
×華さんも振り返る。
「私の元彼は、まあまあクセの強いやつで、別れ話をしたら3日間ぐらい監禁されちゃって。一瞬の隙を見つけて、そのまま東京の桜壱さんの家に転がり込んだんです」
家事に関して、桜壱さんは社交辞令のつもりで「何もしなくていいからね」と言ったが、×華さんは本当に何もしない。
「だから、自然とオレが家事をやるように。沖田の発達障害を気にしたことはありません。ただのめんどくさがり屋やと思っていました。ですが、沖田は天真爛漫というか、なんの裏もない純粋なところがあって、一緒にいると太陽に当たってるみたいで心地いい。なにしろ私は暗い人間なので」
同棲を始めて1年後に結婚。家事も仕事もしないのに、生活費の全部を出してもらえるなんて、×華さんにとって初めての体験。
「申し訳なくて風俗で働いてお金を稼ごうとしたら、あわてた桜壱さんに止められました。それで漫画のアシスタントをするようになったんです。消しゴムかけやスクリーントーンを貼る単純作業は、集中できて好きでした」
あるとき、×華さんの落書きを見た桜壱さんは、試しに4コマ漫画を描かせてみて、確信した。
「お前、漫画家になれ。絶対になれるから」
(取材・文:小野建史)
【後編】桜壱バーゲン&沖田×華が明かす漫画家夫婦秘話「『透明なゆりかご』の大ヒットも精神的に追い詰められ」「夫が教えてくれた新しい色」へ続く
画像ページ >【写真あり】同棲から1年、チャペルで挙式をあげた。出席者は桜壱さんの娘と、×華さんの母親だけだった(他2枚)
