■夫としては嬉しい感情しかない
×華さんのメンタルも安定し、『透明なゆりかご』は講談社漫画賞少女部門に輝く。『お別れホスピタル』も、NHKでドラマ化(岸井ゆきの主演)されるなど、人気漫画家としての足場を固めていった。
同業者である桜壱さんの心中はどうだったのか。
「『透明なゆりかご』のサイン会に同行したとき、ファンが押しかけて『漫画見て救われました』って泣き出す人とかいるんですよ。単純にすごいなって。友達とかやったらうらやましいと思っちゃうけど、旦那としてはすごくうれしい感情しかないですね」
とはいうものの、周囲の扱いで傷つくことはある。
「2年ほど仕事がなかったときに、昔、1回だけ会った編集者からメールが来たんですよ。今度、桜壱さんに漫画を描いてもらいたいって。で、そのとき沖田の連絡先も教えてもらえますかと言われたんです」
打ち合わせの連絡を待っていたが、なかなか来ない。
「ところが沖田のところには速攻で連絡を入れて、連載も決めていました。“また沖田かよ!”って、ここまでバカにされたかと思うと、ブチギレますよ」
ある大手出版社にネームを持ち込んだときに対応した若手編集者の面倒くさそうな態度も許せない。
「ネームを8話作ったのですが、『8話も読めないです』『完成原稿しか読めない』って。なんとか3話だけ読んでもらったのですが、『ここまで完璧なネーム見たことないです。ただ、うちの雑誌には合いません』って追い返されて、落ち込んじゃってね」
■「夫の気持ちが青の概念を超えた」
若手編集者に軽くあしらわれる自分が情けなくなった。夜、×華さんに「ダメやった」と報告したら「今日は飲もう」と居酒屋に連れ出してくれた。
「『すまんな、稼げない旦那で』って言ったら、沖田は『そんなこと一度も思ったことないよ』って……。それで『私、ダンダン(桜壱さん)のこと好きだから!』って大声で言うんですよ。周りのことを全然気にしない。でっかい声で『ダンダン、大好き!』って。オレ、恥ずかしくてトイレに入ったんですよ。若手編集者にはバカにされたけど、沖田は純粋に好きでいてくれるって思ったら、感情が一気にあふれ出して、なんか泣いちゃったんですよ、トイレで」
こうした一連の出来事をWEB連載漫画「毎日、病んでます」第1話に落とし込むと、ネット上で大反響を呼んだのだから、人生、何があるかわからない。
桜壱さんは純粋なまでの×華さんの思いに救われ、周囲になじめなかった×華さんもまた、ありのままの自分を受け入れる桜壱さんと過ごすことで、変化が生じた。
×華さんは、おもむろに誕生日プレゼントに桜壱さんから贈られた青い財布を取り出した。青色が好きな×華さんを思ってのことだったが、こだわりの強い×華さんにとっては、違う青だった。
「桜壱さんが『ごめんね、返品するね』って言ったの。私、それまでは人の気持ちなんかわかんなくて、欲しくないものをもらって、何の意味があるのかって思ってたんですけど、桜壱さんが1カ月も前から一生懸命探してくれたことを知って、私の青の概念を超えたんです。“この人の気持ちがうれしい”って、違う青でも、すごく幸せな気持ちになったんです。
普通の人が抱ける感情を私も持つことができました。桜壱さんといたら、私の人生、もっと豊かになるなって思えたんです」
