■“タニマチ”はアラブの王族…396億円の個人資産
もっと後ろ暗い契約もあった。ベルリン在住の声楽家で、最新のドイツ事情について日本の新聞に寄稿もしているギュンターりつこさんはこう語る。
「2005年から2009年までの間、バッハ氏は顧問としてフェロスタール社と契約していました。年間20日の勤務で12万5,000ユーロ(約1,650万円)の報酬に、1日5,000ユーロの海外出張費。そして2,900万ユーロ(約38億3,000万円)以上の取引の仲介に成功した場合、その一部が成功報酬として支払われるという契約でした。しかし、この契約以上に物議をかもしたのが、同社が兵器の販売も行っている企業だったこと。平和の祭典である五輪の理念に反するという声がありました」
ほかにも複数の大企業で、監査役や顧問の役職を得た。さらには、ドイツの行政機関での役職や、アラブ・ドイツ商工会議所の会長の座にもついている。
2013年にアルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会で、悲願が叶うことになる。2020年の五輪開催地が東京に選ばれたこの総会で、投票に勝ち抜き新会長に選ばれたのだ。自分の名前が呼ばれ、目を赤くして喜ぶバッハ氏の頬に、40年連れ添った妻のクラウディアさんが祝福のキスをする。おそらく五輪金メダルと並ぶ、人生の絶頂の瞬間だったに違いない。
会長就任を後押ししたのは、アジア・オリンピック評議会のシェイク・アハマド会長。クウェートの王族で、巨額のオイルマネーを背景に世界のスポーツ界に強い影響を持つアハマド会長は、スポーツ界とビジネス界の双方におけるパートナーだ。
会長への就任とともに、多くの会社との顧問契約を解消したというバッハ氏。だが、これまでの“ビジネス”で、3億ユーロ(約396億円)以上の資産を築いたとドイツでは報じられている。失敗や後退を知らない人生を送ってきた“ぼったくり男爵”が、五輪開催を懸念する声に、耳を傾けることはないだろう。