韓国国内だけでなく、日本も歓喜に沸いたアジア映画の快挙。しかし、韓国経済の実態を知る識者たちは、「この受賞は手放しで喜べない」と口をそろえるのだったーー。
2月10日(日本時間)に行われた第92回アカデミー賞で、『パラサイト 半地下の家族』(以下、『パラサイト』)が、作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞の4冠に輝いた。ポン・ジュノ監督(50)が成し遂げたこの偉業は、韓国映画101年の歴史上初であると同時に、非英語の作品としては初めての快挙だ。
『パラサイト』は、“半地下住宅”で暮らす貧しい家族・キム一家4人を中心にしたストーリー。しがない内職で生活をつなぐ4人が、巧みに裕福な家庭・パク家に入り込み、家庭教師や運転手、家政婦につくことで、彼らに“寄生”していく様子が描かれている。
キム家が住む“半地下住宅”という設定は、韓国の実態にもとづいている。
半地下部屋とは、地上と地下の間に位置する居住空間のこと。もともとは、’60年代後半、南北問題が緊迫化するなかで、北朝鮮の侵攻に備えた地下の避難場所として、住宅施設に設置が義務づけられていたものが、徐々に居住空間へと変わっていった。
家賃は一般的なアパートの半額で約3万〜5万円程度。キム家のように収入の少ない家庭や若者、年金のみを頼りに生活する高齢者などが住んでいるという。
いっぽう、劇中でパク家が住んでいたのは庭が広く、浴室もテレビつきという“高台の大豪邸” 。
キム家のような貧困層と、パク家のような富裕層の格差について、韓国が抱える問題を踏まえながら、ジャーナリストで『コリア・レポート』編集長の辺真一(ピョン・ジンイル)さんはこう語る。
「韓国で、貧しい家庭に生まれた子どもが“成りあがる”というケースはめったにないのです。というのも、高収入を得るため一流企業に入社するには、名門大学に入らなければいけない。名門大学に入るためには、いい高校に……と、幼少期から塾通いをしたり、いい家庭教師をつけたりと、膨大な教育費が長期間にわたってかかってきます。そうなると、金持ちにあらずして一流大学、一流企業に入ることはできない。つまり、“親がダメだったら子もダメになる”という連鎖がどんどん広がっていくのです」
そして、半地下に生まれた家庭の子どもは、富裕層の子どもと遊ぶことすら許されないという現状も……。
「韓国ドラマではよく『賃貸アパートの子どもと遊ぶな』という表現が見られます。つまり、富裕層の親は、貧しい家庭の子と自分の子を遊ばせないように教育する。半地下の子どもに対しても同様でしょう。富裕層の子どもたちの間では、貧困層を差別するような言葉が流行してしまっている、という報道もあるほどです」(韓国在住ジャーナリスト)
韓国人の作家・ルポライターの柳在順(ユ・ジェスン)さんは、『パラサイト』に込められたポン・ジュノ監督の“メッセージ”についてこう語る。
「物語終盤、キム家とパク家の間に“大事件”が起きることで、この映画はクライマックスを迎えることになります。監督は、このまま貧富の差が広がれば、やがて“事件”が起こることを危惧しているのではないでしょうか。韓国はいま文在寅(ムン・ジェイン)政権下で、景気の悪化にあえいでいる。貧困層の韓国社会に対する不満や富裕層への怨恨は、爆発寸前まで来ていることを、映画で伝えたかったのかもしれません」
「女性自身」2020年3月3日号 掲載