古式ゆかしい節回しで、講師らが和歌を読み上げる声が、皇居・宮殿の松の間に響き渡る。1月19日、新春恒例の宮中行事である「歌会始の儀」が行われた。宮内庁によれば、「歌会始の儀」の起源は鎌倉時代中期の1267年まで遡る。皇室で750年以上にわたり受け継がれてきた、新年を彩る行事の一つだ。
今年のお題は「和」。
天皇陛下と雅子さま、愛子さまをはじめとする皇室の方々に加え、国内外の約1万5千首から選ばれた入選者10人、選者らの歌が披露された。雅子さまは次のような御歌を詠まれている。
《広島をはじめて訪ひて平和への深き念ひを吾子は綴れり》
2016年5月、学習院女子中等科3年生だった愛子さまは、修学旅行で広島市の平和記念公園をご訪問。その場で受けた衝撃と平和を尊ばれるお気持ちを、女子中等科の卒業文集に寄せた作文にこう記している。
《家族に見守られ、毎日学校で学べること、友達が待っていてくれること…なんて幸せなのだろう。なんて平和なのだろう。青い空を見て、そんなことを心の中でつぶやいた》
陛下と雅子さまは、愛子さまが幼いころから、ご一家で戦争の悲惨さや平和の大切さについて話し合われてきた。歌会始の終了後、宮内庁は雅子さまの御歌について、解説を添えて公表している。そこには、“中学生の愛子さまの作文を読み、感慨深く思われたときのことを詠まれている”とある。
「愛子さまが平和について深く考えられるようになったご成長ぶりを、雅子さまが喜ばれているお気持ちが表れています」
と語るのは、京都大学名誉教授で、歌会始の選者も務める歌人の永田和宏さんだ。雅子さまの御歌からは、平和を尊ばれてきた皇室のお心も表現されているという。
「上皇ご夫妻、天皇皇后両陛下は、日本と世界の平和の実現を究極のミッションとして捉え、大切にしてこられました。
それを両陛下はお二人で願われてきた。そこに愛子さまが成長され、同じところで平和について考えるようになったことへの喜びが、この歌にあると思います。
また皇后さまが、愛子さまのご成長を投影し、もう一度平和を考えられているところも大事です」
まもなく2年が過ぎようとしているロシアによるウクライナへの軍事侵攻。そして昨年10月に勃発したイスラエル軍とパレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘ーー。いまも多数の民間人に犠牲者が出ており、戦禍が広がる一方だ。
国家、民族、宗教の間に分断が広がり、人々が憎しみ合う世界で、雅子さまは御歌に「令和皇室の指針」を込められているという。