阪神電気鉄道は7月28日、甲子園球場の「銀傘」と呼ばれる内野席の一部を覆う屋根について、一、三塁側ともにアルプススタンドまで拡張するという構想を発表した。早ければ、2025年のプロ野球のシーズン後に着工するという。毎年行われる、8月の全国高校野球選手権大会において、熱中症による救急搬送者の多くはアルプススタンドで応援する学校関係者とのこと。屋根拡張により、熱中症の危険性が軽減されればよいがーー。
実際今年もすでに高校野球の予選段階から、選手や審判だけでなく、応援席の生徒や保護者が熱中症による症状で救急搬送されている。7月11日には山梨県甲府市の球場で、高校野球の応援をしていた青洲高校の吹奏楽部の男女4人が熱中症で病院に搬送。17日には静岡県の焼津市営球場で、高校野球の選手と観客 計6人が軽症で搬送された。
まもなく始まる夏の甲子園だけでなく、プロ野球やサッカーなど、スタジアムでのスポーツ観戦が過熱する8月。今年の夏は日本中、各地ですでに「熱中症警戒アラート」が発令され、体温を超える「危険な暑さ」が続いている。炎天下での観戦は非常に危険を伴うだけに、日よけや水分の準備を万端にして観戦する人も多いに違いない。でも、夕方からのナイターなら大丈夫だろう、今日は1日曇りだからきっと問題ない、屋根がある席だから直射日光は浴びなくてセーフと、タイミングと環境によっては少々油断する場合もあるのではないだろうか。
しかし、熱中症にかかる人を減らし、亡くなる人をゼロにすることを目指して一般財団法人日本気象協会が推進するプロジェクト「熱中症ゼロへ」は、スポーツをする人も観戦する人も熱中症には特に注意が必要で、屋外の観戦だけでなく屋内の観戦でも熱中症になることがあるので油断は禁物と、観戦者へ屋外屋内を問わず、熱中症への注意を呼び掛けている。
東京消防庁が発表している熱中症の統計資料に注目すると、令和4年の6月~9月の「時間帯別の熱中症による救急搬送人員の数」は、総数6,013人のうち11時台から16時台はそれぞれ500人以上と多いが、18時、19時台も200人を超える搬送数、また、朝9時でもなんと300人以上が搬送されているという事実がわかった。
また、同期間の「気温別の熱中症による救急搬送数」のグラフを見ると、35度台の時が2,168人と突出した数になっているが、28度台でも156人、29度台では229人と、少なくない数の人が30度未満でも搬送されていることがわかる。また、「救急要請時の気温と湿度」のグラフを見ると、気温が25度ほどと低くても、湿度が高いと救急搬送されていることがわかる。
そもそも現在環境省では、熱中症の危険度を判断する数値として、平成18年から「暑さ指数(WBGT)」を指標としており、気温だけが熱中症の原因ではないということを示している。
「暑さ指数(WBGT)」は、乾球温度(気温)1:湿球温度(湿度)7:黒球温度(輻射熱)2の計測値を使って算出され、この暑さ指数が28を超えると、熱中症の患者発生率が急増するといわれている。気温だけではなく、湿度こそ熱中症発症に大きく関係するのだ。
実際、環境省が発表した7月17日~23日の「暑さ指数と熱中症救急搬送者数」速報によると、「6都市(東京都、大阪市、名古屋市、新潟市、広島市、福岡市)の日最高暑さ指数(WBGT)の平均値は、7月17日に『危険』を示す31以上となり、7月18日以降は毎日『厳重警戒』を示す28以上31未満。この間の熱中症による全国の救急搬送人員数は、消防庁速報で9,190人」だった。7月24日以降は全国で週に1万人を超える搬送者数になると予測されている。
スポーツ観戦をしていると、熱戦を前につい自分も応援に熱くなるものだ。そんな時、どんなに水分を取り、日差しを遮っているから大丈夫と思っても、ムシムシとした湿度の高い中では体調が悪くなる危険性がある。気分が悪くなったり手足がしびれたり、体調不良になったらすぐに熱中症を疑い、涼しいところへ逃げ込んでまずは身体を冷やし、水分と塩分を補給すること。自分を過信せず、事前に予防策を取りながら、楽しく最後まで観戦しよう。
参考URL:東京消防庁「熱中症の統計資料」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/topics/season/toukei.html#top