■「生前贈与」の制度が資産を守ることも
後見人の主な役割は、医療機関や介護保険サービスの契約をする身上監護と、預貯金などの管理をする財産管理の2つ。
「現在の制度では、家族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が選任されやすく、その場合毎月専門家に支払う報酬が必要になってきます。また、手続きが煩雑で、財産の管理に不自由を感じる人は多く、制度の利用は伸び悩んでいるのが実情です」
そのような煩わしさを解消しようと、全国銀行協会は今年に入って認知症の人の預金の引き出しを「管理権限」を持っていない家族でも一定の場合にはできるように指針を発表した。
全国の銀行がどのように実施するのか、詳細が決定するのはまだ先なので、当分は「代理人カード」で対応することも考えられる。
代理人カードとは、親が認知症になる前に金融機関に行くと、本人と生計を同一にする親族が使えるキャッシュカードをもう1枚作ることができる。カードの発行手数料は金融機関によって異なるが、目安は1,000〜2,000円程度。
また、親が貸金庫を持っている場合でも、代理人登録をすると、出し入れが可能になる。
「財産管理が自由にならなくなるのは、預金の引き出しだけではありません。認知症であると判断されると、不動産、株、自動車などの資産も本人が亡くなるまでいっさいの売買などの処分ができなくなる可能性があります」
子どもに現金を残しつつ、亡くなった後の相続税を最低限にしたいのであれば、親が元気なうちに「生前贈与」の手続きを行うのが得策だ。年間110万円までの贈与であれば、贈与税が非課税となる「暦年贈与」という制度を活用するとよいだろう。
「株式などの金融商品も生前贈与できますが、親には認知症になる前に売却できるものは売却し、現金化してもらったほうがいいと思います。クレジットカードも『家族カード』を発行することで子どもが使えることになりますが、元気なうちに解約しておいてもらったほうが無難でしょう」
注意したいのは、生命保険や医療保険など、被保険者が親になっている場合、親が認知症になると保険金や給付金を請求できなくなり、支払いが受けられないケースもあること。
配偶者や3親等以内の親族などをあらかじめ「指定代理請求人」にしておくと、いざというときに本人の代わりに請求できるようになる。
日常的な金銭管理(電気・ガスなどの公共料金の支払い、預金通帳や年金の管理など)には、市区町村の社会福祉協議会で扱う「日常生活自立支援事業」が使える。専門の研修を受けた生活支援員が、金銭管理や介護などの行政サービスを利用する際の手続き、日常的な見守りを行う。利用料は1カ月で1,000〜3,000円程度と比較的安い金額で利用できる。
ただし、持ち家のリフォームや自宅を売却したお金で介護施設に入りたい、といった要望が出てくると、これらでは対応しきれなくなる。特に不動産の売却は困難になることが多いそうだ。