■世帯分離すれば「高額介護サービス費」の上限が下がる可能性
自己負担2割の対象拡大をうけて、「『世帯分離』を検討してほしい」と語るのは、「お金と福祉の勉強会」代表の太田哲二さんだ。
「親子が同居するなどして、親と子が同一の世帯である人も多いでしょう。しかし、介護保険料など社会保障に関する費用は、所得の高い世帯ほど負担が大きくなる。世帯を分ければ、親の収入のみで計算されるため、社会保障にかかる費用が安くなる可能性があるのです」
なかでも、介護にかかわるのが、「高額介護サービス費支給制度」。1カ月の介護保険利用額が、設定された上限額を超えた場合、市区町村に申請することで超過分が払い戻される制度だ。世帯分離することで上限額が下がり、返金額が増える可能性がある。
たとえば、世帯に住民税が課税対象の収入の人が一人でもいる場合、上限額は月4万4400円(ただし、介護を受ける人が年収約770万円以上の場合、上限額は月9万3000円に上がる)となる。一方、世帯の全員が住民税非課税の収入の場合、上限額は2万4600円まで下がる。
年金200万円(基礎年金と本人の厚生年金の合計が約80万円、遺族厚生年金約120万円)を受給している80代母と、合計の年収が600万円の50代子夫婦が同一世帯だと、上限額は月4万4400円。しかし、世帯分離すれば上限額は月2万4600円まで下がる。
単身世帯の場合、年金約155万円未満から住民税非課税。遺族年金や障害年金はこの計算に含まないため、母の収入は約80万円とされ、世帯分離で “住民税非課税世帯”になるためだ。ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんが解説する。
「上限額を月2万4千600円まで下げたとしても、自己負担が1割なら、要介護3以上で支給限度額近くまで使った場合でないと、恩恵はありませんでした。しかし、2割の対象が広がった場合、世帯分離によって高額介護サービス費の上限額を下げるメリットは大きくなりそうです」
たとえば、2割負担で要介護1を支給限度額まで使うと、月3万3530円の自己負担額が発生するが、世帯分離で高額介護サービス費の上限額を2万4600円まで下げておくと、8930円が返金される。
同様に、要介護2の場合、世帯分離することで月1万4810円、年間17万7720円ものお金が返ってくることに。逆にいえば、2割負担になった場合、世帯分離しないと約18万円損することになる。
世帯分離には、どのような手続きが必要なのだろうか。
「役所で『世帯分離したい』と申し出ると、『住民異動届』などの書類が渡されます。書類に記入し、運転免許証など身分証明できるものを提示すれば手続き可能。所要時間も5分ほど、費用は無料です。
ただ、理由を問われた場合『介護費用を安くしたい』と言うと、『受け付けられません』と断られることも。『親と生計を別にしたので』と話すとスムーズに手続きできるでしょう」(前出の太田さん)
年金収入や、その他の収入、同一世帯の子供の収入など、それぞれの事情によって、世帯分離の恩恵があるかは左右される。必ず、事前に市役所の窓口などで、世帯分離をした場合、どうなるか確認をしたうえで判断してほしい。
目まぐるしく変わっていく介護保険制度。絶対に損をしないために、“世帯分離”という技を知っておいてほしい。