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(写真・神奈川新聞社)

 

警察官による虚偽の調書作成が公判中に発覚した大麻取締法違反事件で、同法違反の罪に問われた男性被告(25)の判決公判が12日、横浜地裁で開かれた。国井恒志裁判官は、虚偽の調書に基づいて押収された大麻などの証拠を排除した上で「犯罪の証明がない」として無罪を言い渡した。

 

事件では、大船署の元巡査部長=懲戒免職=が実際には証言者が話していないことを盛り込む形で供述調書を改ざん。調書を基に捜索令状を取得し、被告のミニバイク内から大麻を押収した。公判では弁護側が大麻などの証拠排除を求め、検察側も求刑を放棄して積極的に争わない姿勢を示していた。

 

判決理由で国井裁判官は、一連の捜査を「令状主義の精神を没却する重大な違法」とし、「大麻などを証拠として許容することは相当でない」と述べた。また被告が一貫して大麻の所持を否認していた点についても、検察側の立証がなされていないことから被告側の主張を支持した。

 

被告の代理人は「公正な判断に感謝したい。所持についても踏み込んでもらい、人権擁護の観点からも評価している」と述べた。横浜地検の林秀行次席検事は「違法な捜査手続きにより重要証拠が排除され無罪判決が下されたことは遺憾」とコメントした。

 

県警刑事総務課の荻原英人課長代理は「証拠偽造などの極めて不適正な行為があったことは重く受け止めている。指導教養を徹底するなど再発防止に努めたい」とのコメントを出した。

 

判決によると、被告は2015年11月、川崎市川崎区の自宅に止めてあったミニバイク内に大麻を隠し持っていたとして起訴された。しかし、今年6月に調書の偽造が発覚、元巡査部長は証拠隠滅などの罪で罰金50万円の略式命令を受けた。

 

■再発防止へ背景検証を

 

見つかった大麻が誰のものだったのか、真相を究明する機会は、県警の違法捜査で失われた。こうした行為が一人の警察官による例外的なケースなのかどうか、刑事弁護の専門家からは違法行為の背景と捜査の在り方を検証すべきとの声も上がる。

 

改ざんがあった供述調書は、捜索令状を請求する過程で作成された。調書がいったん作られ令状が出れば、証言者が調書の内容に再び目を通す機会は著しく限られ、不正も露見しにくいのが実情だ。

 

県弁護士会刑事弁護センター副委員長の妹尾孝之弁護士は「発覚しにくいということが、改ざんを誘発する遠因になっている可能性もある」と指摘する。

 

改ざんに手を染めた元巡査部長は「関係先の捜索令状を確実に取りたかった」と動機を供述。今月8日に厚生労働省の麻薬取締官が虚偽の調書を作成したとして逮捕された事案でも、捜査を強引に進めようとした疑いが浮上している。

 

そうした捜査をスムーズに進めたいとの心理が取り締まる側につきまとう以上、「これまでほかにも同じことがなかったとは言い切れない」と妹尾弁護士。「悪い警察官が1人いたという話で終わらせず、県警は背景と原因をきっちり調査すべきでは」と提起している。

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