image

(写真・神奈川新聞社)

 

鍋物など冬の味覚として人気のトラフグが、東京湾で繁殖している可能性が高いことが、県水産技術センター(三浦市三崎町城ケ島)の調査で分かった。これまで東京湾では繁殖が確認されていなかっただけに、同センターは稚魚放流の効果も指摘し、「産卵場として定着し、東京湾で多く漁獲できるようになれば」と期待している。

 

同センターによると、昨年4月に東京湾の入り口にあたる千葉県・富津沖で、釣り船客が産卵期の兆候を示す雄のトラフグを大量に釣り、中には1日で100匹以上釣り上げた船もあった。東京湾で春にこれだけのまとまった漁獲を確認したのは昨年が初めてだったという。

 

同6月には荒川河口の葛西臨海公園近くの海岸で、1~4センチの稚魚約100匹が見つかった。放流される稚魚は一般的に4センチ以上。発見されたのは生後約1カ月のもので、同センター職員が現地でサンプルを確認して天然魚と判断した。

 

同センターによると、トラフグは4月中旬から5月中旬にかけて、水深10~50メートルの砂が粗い海底で産卵する。稚魚は河口付近の塩分濃度の低い海岸で成長するとされ、発見された富津沖と荒川河口は時期や条件に合致した。

 

さらに同10月からは横浜・柴漁港で、トラフグが1日に平均約35匹水揚げされるようになった。大きさは主に25~30センチ。これまでは水揚げされるトラフグの7~8割は放流魚だったのが一転、同センターが調べたところ今シーズンは9割が天然魚という。

 

こうした点を踏まえ、同センターはトラフグが東京湾で繁殖している可能性が高いと推測する。要因として、日本有数の産地の中で東京湾に最も近い伊勢・三河湾域から天然魚が多く流れてきたと思われることや、産卵に適した条件が東京湾で整っていることを指摘。さらに、放流された稚魚が産卵している可能性を挙げる。

 

同センターでは水揚げ量の安定化に向け、2008年から本格的に稚魚の放流を開始。ここ数年は年間6万~10万匹を東京湾や相模湾に放っており、東京湾で釣り上げられたトラフグの中には、放流魚であることを示す鼻孔の欠損が確認されたという報告もある。

 

「東京湾で昨年、突発的に産卵されたのか、今年も続くのか注目したい」と同センター。今後は産卵期のトラフグが東京湾で釣り上げられた際にサンプルを入手し、天然魚か神奈川の放流魚かなどを詳しく調査する。産卵が確認できた場合、資源管理を漁業者と検討する方針だ。

 

同センターは「産卵期のトラフグや放流魚を取りすぎず、親として残せばさらに資源が増える可能性がある。東京湾がトラフグの名産地となり、身近な食材になってほしい」と話している。

関連カテゴリー:
関連タグ: