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(写真・神奈川新聞社)

 

海老名駅の自由通路で市民団体が行った「マネキンフラッシュモブ」と呼ばれる表現活動に対し、海老名市が発令した市条例に基づく禁止命令は表現の自由を過剰に規制するもので違憲として、メンバーらが市を相手取り命令の取り消しを求めた訴訟の判決で、横浜地裁(大久保正道裁判長)は8日、「命令は違法」として原告側の訴えを認めた。

 

■「条例の解釈適用誤った」

 

原告は、市民団体「#マネキンフラッシュモブ@かながわ」と、吉田美菜子海老名市議らメンバー9人。

 

判決によると、メンバーらは昨年2月、「アベ政治を許さない」などのプラカードを掲げながらマネキンに扮(ふん)して静止するパフォーマンスを自由通路上で実施。市はこうした行為を市海老名駅自由通路設置条例で禁じた集会やデモに該当すると判断し、同3月に参加者の1人だった吉田市議に対して禁止命令を出した。

 

大久保裁判長は判決理由で、一連のパフォーマンスの時間や規模から、「多数の歩行者の安全で快適な往来に著しい支障を及ぼすとまでは認められない」と指摘。条例で規定された禁止行為に該当しないと認定した上で、市の命令を「条例の解釈適用を誤った違法なもの」とした。

 

吉田市議を除くメンバーが請求した今後の禁止命令の差し止めに関しては、市側が訴訟で命令を出す予定がないと明らかにしたことから却下した。

 

原告代理人の大川隆司弁護士は「全面勝訴判決。市は条例で規定すれば何でも規制できると思っているようだが、判決は表現の自由を尊重した解釈になっており画期的」と評価。吉田市議は「政治全体が表現の自由・言論の自由に圧力じみたものをかけてくる中、この司法判断は大きな意味を持つ」と述べた。

 

内野優市長は「現時点で判決の詳細を把握していない。今後の対応については弁護士とも相談し検討していく」とコメントした。


■解説=恣意的運用歯止めに

 

【時代の正体取材班=石橋 学】海老名市の禁止命令を違法とした判断は、市条例の恣意(しい)的運用に歯止めをかけ、権力の乱用に警鐘を鳴らすものとして重要な意味を持つ。デモなどによる政治的主張、とりわけ政権批判を排除しようとする政治的風潮が強まる中、表現行為の規制は極めて限定的でなければならないという憲法上の大原則を再確認するものであるからだ。

 

判決は、マネキンに扮(ふん)したパフォーマンスを市条例が禁じた「集会、デモ、座り込み」に当たるとした市の判断が誤りだったとした。当該のパフォーマンスは「相当時間にわたり相当部分占拠する様態ではない」「安全で快適な往来に著しい支障をきたす恐れが強い行為とまで認められない」ため、規制され得るものとは言えず、市の判断は条例の拡大解釈に当たると指摘した格好だ。

 

デモを無条件で禁じるという市条例自体の違法性、違憲性については立ち入らなかったものの、表現の自由を尊重した判断といえる。規制され得る行為か否かの判断に「相当時間にわたり相当部分占拠する様態」といった限定的な基準を示しているからだ。

 

道交法の解釈を巡り駅前のビラまきは許可不要とした1966年の東京高裁判決を踏襲した判断ともいえ、市条例の運用に当たっては道交法を上回る規制は許されないことを示した。市条例によるデモの禁止条項は不要であるばかりか、乱用の具体例が認定された以上、その余地を残す条例はおのずと改廃が求められよう。

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