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(写真・神奈川新聞社)

 

商業施設やオフィスビルが集積する横浜・みなとみらい21(MM21)地区(横浜市西区、中区、186ヘクタール)で3月から、災害時の帰宅困難者対策に地区内の施設が連携して当たる仕組みが本格的に動きだした。利用客らを特定の施設で収容しきれない場合は、まちづくり法人が調整役となって別の施設で受け入れ、いち早く混乱を回避するのが狙いだ。市内初の試みで、現時点でホテルや複合ビルなど18施設が協力。来街者の増加が続いているだけに、今後さらに輪を広げ、共助の新たな形として定着を図る。

 

本格運用が始まった「帰宅困難者一時滞在施設登録制度」の旗を振るのは、MM21地区のまちづくりや各種の調整を担う一般社団法人「横浜みなとみらい21」(友田勝己理事長)。

 

同法人が登録を呼び掛けたところ、現在立地する51施設(マンションや公園を除く)のうち、3月までに横浜ランドマークタワーやクイーンズスクエア横浜、日本丸メモリアルパーク訓練センターなど10施設が協力を表明。これに先駆けて市と個別に協定を締結していたホテルや企業などと合わせ、計18施設が帰宅困難者一時滞在施設になった。

 

一時滞在施設になると、市から水缶やビスケット、簡易トイレ、アルミブランケットが提供され、災害時は安全上の問題などがなければ、施設内や周辺にとどまる利用客らが滞在できるようにする。

 

受け入れの際、各施設は同法人にファクスとメールで状況を報告。帰宅困難者が収容可能人数を超えるような場合は法人が別の施設に問い合わせ、協力を求める。各施設が閲覧や書き込み可能な掲示板サイトを開設しており、地区全体で情報を共有しながら、混乱回避や利用客らの不安解消につなげる。

 

こうした共助の仕組みづくりのきっかけは、鉄道の運行中止により首都圏で推計500万人が帰宅困難者になった6年前の東日本大震災だ。当時、MM21地区の一時滞在施設はパシフィコ横浜しかなく、急きょ対応に追われたビルもあった。8千人を受け入れたパシフィコも備蓄が整っておらず、毛布などをすぐに提供できなかったという。

 

教訓から事業者や施設が連携し、地区内で取り組むべき防災対策について幅広く議論。造成時に地盤対策が講じられている上、高層ビルが多く、液状化や延焼火災のリスクが低いという特性を踏まえ、帰宅困難者対策を重点課題に位置付けてきた。これまでの検討や訓練の成果を昨秋発行の「災害時行動ガイド」にまとめ、多くの施設に帰宅困難者対策への理解を促すとともに、今回の登録制度につなげた。

 

同法人によると、震災のあった2011年に5,900万人だった年間来街者数は16年に8,100万人に達し、5年間で1.4倍に増加。就業者を除くと、1日平均で10万人以上が訪れている計算だ。

 

同法人の八幡準企画調整部長は「登録が進んだことで一時滞在施設の地域的な偏りはかなり解消したが、まだ十分ではない。引き続き各施設の協力を求めていきたい」としている。

 

市内に一時滞在施設は226あるが、市危機管理室は「こうした試みは例がない。有効な手段になるのではないか」と期待。MM21地区の18施設以外は個別に帰宅困難者を受け入れることになっているという。

 

国による首都直下地震の被害想定では、都内を中心に東日本大震災を上回る800万人の帰宅困難者が見込まれている。

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