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(写真・神奈川新聞社)

 

横須賀市立市民病院(同市長坂)の食堂「ぐらばぁ亭」が18日に閉店する。喫茶店として開業し、30年以上にわたって外来患者らに食を提供してきたが、厨房(ちゅうぼう)で腕を振るう社長の原口勇雄さん(72)が妻・宏子さん(76)の看病に専念するため決断した。「断腸の思いだが、ここまでやってこられたのはお客さんのおかげ」。原口さんは感謝の思いを胸に料理人人生に幕を下ろし、愛妻への恩返しの日々を歩む。

 

ぐらばぁ亭は1984年、相模湾を望める西棟最上階の7階にオープン。当初は喫茶店、後に食堂として、横須賀をはじめ三浦や鎌倉など三浦半島全域からの外来患者や見舞客らの憩いの場となっていた。

 

スパゲティミートソースやエビフライ定食、ハンバーグステーキ定食に冷やし中華…。50を超える定番料理や飲み物が並ぶメニュー表には、カロリーと塩分量を表示する“優しさ”も添えられている。「これだけの数を出している病院の食堂は他にない。自分が食べておいしいと思う料理を提供してきた」と自信を込める。

 

台湾で生まれ、戦後すぐに母親の実家がある長崎に移った。上京後は自動車工場で働き、料理人に転身。修行を経て27歳の時、宏子さんと横須賀市内に洋食店をオープンした。その後はスパゲティ店なども開業し、友人からの誘いを機に、病院での飲食店経営に携わるようになった。

 

「数えれば切りがない」と話す通り、客との思い出は尽きない。6~7年前、週4回ほど足を運んでくれていた高齢の男性が突然姿を見せなくなり、後に亡くなったことを知った。「亡くなる前に『もう一度、ぐらばぁ亭でご飯が食べたい』って言ってたと、人づてに聞いた。もう少し早く分かっていれば、お見舞いに行けたのに」と悔やむ。

 

宏子さんは10年ほど前から乳がんを患い、闘病を続けてきたが、7月になって病状が悪化。「これまでずっと苦労を掛けたから」と店を閉じると決断し、病院側に伝えた。「迷惑を掛けるのに『30年間ご苦労さまでした』と言われ、涙が出た」。宏子さんからも「私のために申し訳ない」と泣かれたが、「お客さんには『申し訳ない』と思わないといけないけど、俺には思うな」と話したという。

 

45年務めた料理人の世界からも引退する。「私の励みになって、支えてくれたのもお客さん。全てはそういう人たちのつながりの中で今日まで生きてこられた。悔いはない」

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