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佐久本嗣男さんと清水由佳さん(右)に日本一を報告し、笑顔を見せる新垣愛花さん=沖縄県那覇市(写真・琉球新報社)

 

3世代にわたる師弟関係の不思議な縁が、空手全国一を引き寄せた。沖縄県那覇市の菓子製造工場で働きながら空手に取り組んできた耳の不自由な新垣愛花さん(23)が10月、第12回全日本障がい者空手道競技大会の身体障がい部門(聴覚障がい)の形・女子個人戦で初優勝した。優勝の陰には2人の師匠の存在があった。

 

「優勝しましたよ」。優勝の後、ろう者の新垣さんは空に向かってメダルを掲げた。今年3月に他界した師匠の與儀静江さん(享年40)に向けてだ。そして11月上旬、もう一人の師匠にメダルと賞状を見せて優勝を報告した。與儀さんが亡くなった後、新たな師匠となった元世界王者で県体育協会副会長の佐久本嗣男さん(68)だ。佐久本さんは「天国の静江から『愛花をよろしく』とメッセージを送られた気がした」と語った。

 

新垣さんは高校時代から與儀さんに師事していたが、與儀さんは3月にがんで他界した。一方、佐久本さんは7月、本紙記事を読み、空手の先生を亡くして一人で稽古している女性がいることを知り、指導を買って出た。

 

「静江か」―。佐久本さんは新垣さんと初めて対面した際、亡くなった指導者の名前を聞き、驚いた。與儀さんは二十数年前、佐久本さんが浦添高校空手道部時代に直接指導したまな弟子だった。

 

與儀さんはがんを患っていることを知らせず、亡くなる数カ月前まで新垣さんを指導していたという。新垣さんは師匠の突然の死に、しばらく意気消沈して稽古に身が入らなかった。そんなときに手を差し伸べてくれたのが佐久本さんだった。「日本一になれたのは、本当に與儀先生や佐久本先生のおかげです」。新垣さんは表情をほころばせる。

 

全日本大会への挑戦は3回目だった。昨年は、練習不足で最下位に終わった。「先生方から習った通りやればできる」。新垣さんは自分に言い聞かせ、與儀さんと佐久本さん直伝の形・セーパイを披露。練習の成果は、結果に結び付いた。

 

與儀さんから習ったセーパイに、磨きをかけたのが佐久本さんだ。セーパイは與儀さんにとっても、佐久本さんから教わった得意な形だった。

 

道場では佐久本さんと共に、清水由佳さん(34)が新垣さんを指導した。耳の不自由な新垣さんのため、佐久本さんの言葉をメモして見せるなどして技術向上を支えた清水さんは、「(新垣さんは)聞こえなくても、体の全ての感覚を研ぎ澄まし技術を吸収している」と評価した。(半嶺わかな)

 

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